四章:雑魚貴族、本ルートより転ぶ…

01 夏の強制イベント (1)

 季節は夏。学生の制服の衣替えも済み、白を基調とした半袖姿は全体的に明るく眩しい印象。

 この世界は日本の気候を再現してるせいか、湿度高めで暑いというより蒸し熱い感じなのがたまに傷。

 そんな環境で中世風の世界だと日中が大変とか思ってたし、実際、実家の暮らしでも暑い日は酷いもんだったが、実は王都に限ってだけだと……そうでもなかった。

 学院と貴族環境だけの特権って感じなんだが、普通にあるんだよね、クーラー(のような魔道具)。


 ……さすがは乙女ゲーム設定な異世界。

 生活に密着した部分の便利さは現代社会より下にはしないのを徹底していた。


「魔術士が王都で魔道具製造を自称できる最低基準が、冷暖房に関する実用的技量となります」


 ……とまぁ、メイド伝いの情報にて知るそんな業界基準があったようで。

 その系統の技術が魔道具作成に必須なものでは無いそうなんだが、魔道具を公式に販売する許可などには必須なものなんだとか。

 そのおかげで貴族位をもつとこなら最底辺の下位でも買おうと思えば苦労しない。

 もし自宅に無かったとしても、それは高価で買えないではなく、当人に買う気が無いという体裁になる。

 領地無しの貴族、いわゆる役人職系の法服貴族は国からの給料制で安定した生活が約束されている。現代のクーラーに電気代がかかるのと同じに魔道具の維持費は個人の出費になるが、そこは必須と思うなら自己責任でという話なわけだ。


 ちなみに、この世界では“準貴族”といった公で立場の曖昧なものは無い。

 準男爵や騎士爵といったものは存在するが、それも引っくるめて、ちゃんと立派に貴族様な扱いだ。


 ……もっとも、当事者たちの感情の面では貴族扱いされないってパターンはあるけどね。

 例えば、ウチみたいな成金全開で知名度の高いとことかなー……。



 で。



 中間試験の阿鼻叫喚を糧に自重と節制を学んだ俺は、無事に、なんとか、期末試験を無難に乗り切った。

 全力を出してはイケナイ。

 例によって背後に悪役令嬢ラスボス様の圧が発せられたりしたが無視した。


『二体目のレイドボスが湧くかも?』と暗に臭わせたら生徒会も頑張ってくれたようだ。


 ちなみに、まだ一体目の安否確認(?)も済んでない。

 地形変化した学内ダンジョンの地図作成を終えた生徒会側は“やんわり”と学生を調査メンバーから外し、現在はダニングスの意地で冒険者ギルドのみ頑張っているらしい状況。

 あれだね。目標としてた25階層目が空ぶったのが規模縮小の大きな決め手だ。

 26階層は何とか攻略したそうだが、順当に強さを上げた魔物の居る27階層が侵攻は頓挫。

 実質、攻略を進めれるパーティがダニングスのとこだけになったようなので、今後は調査ペースが遅々となること確定ということらしい。


 ……それでもリリィティア様の強制徴用で週一の探索がルーティン化してんだけどね。


 何が彼女をそう駆り立てるのか?

 どうにも、俺が魔物相手に無双する様を定期的に観賞したい……な感じらしい。

 とりあえず20と21階層を巡回してお茶濁しな時間潰しで済んでいる。

 加えてアイテムボックスにはヒト型魔物の素材が無駄に貯まってくんだが……シェイプシフターの皮って名称の全身タイツ的な何かをどうしろと?……という感じである。


 ……無限収納っぽい仕様でホントに助かる。

 下手に処分しようとしても、不思議とメイド経由で兄貴が何かに使いそうで怖くて怖くて。


 そうそう、兄貴と言えば“例の謀略”で面白い事になっている。

 当初は深く静かに数年かけて進めるはずの隣国焦土化計画が、僅か一ヶ月程度で妙な進展を遂げてるのだとか。


 なんでも、ただ毒入りタバコの〈昇蛇香シガンナーガ〉をタダ同然で配るより、何かの労働の対価的にした方が効果的かと、幽霊商会を看板にして適当な鉱山話をでっち上げてみたそうだ。

 労働力は現地の最下層民。過酷な労働の対価として僅かな報酬と“幸福感を得られるタバコ”。

 ……なんとも、悪魔の所業としか言いようのない組み合わせだ。

 地獄の労務な環境なら、ちょっとやそっと身体を壊しても当然な空気が蔓延していて、爆発的に利用者を増やしてるんだそうで。

 しかも掘り進める先は隣国の主要都市などの地下基盤へ向けて。加えて最終目的地は推定でだがオアシスの点在する水源地帯へ。

 上手い具合に坑道が地下水道化でもすれば、良い感じに地盤の空洞化が起きそうとか何とか。

 マジで容赦無い破壊活動になってるようだよ。


 現時点で王都に一番近い地域への進行度は約3%。

 人数にして8千人かそこら。百近い村や集落を汚染済みとのことで、今後最良の結果となるなら本年度の戦争イベントが潰せるかもな概算らしい。

 さすがに話の内容が数字付きで言われても理解できないが、兄貴が嬉々として言う感じから良い成果は出てんだろうな。


 あと実家と繋がる街道周辺の整備も進んでいるといった寝耳に水の話もチラホラ。

 少し突っ込んで聞いてみたら、別宅回りに湧いたアルミラージを街道周辺に放流して他の魔物避けにしてるとかナントカ。

 意味が解らんのでチャカをとっ捕まえて具体的に意思疎通すると、あのダンジョンの支配を俺の支配領域に上書きしたものの応用として、街道付近の土地を魔力的に支配したのだとか。

 周辺警備の主役はアルミラージ。迷い込む魔物は狙撃しまくりらしいよ。

 冒険者相手にはハンムラビ法典的に対応、野盗はサーチアンドデストロイ。

 そのあたりの調教はメイド隊が頑張ったらしい。


 ……人が知らん間になにやってんの? としか言葉が出ない。


「些末な雑務は私共配下の領域でございます。ウザイン様はこの場この時に相応しき行いを為すのが貴族の責務かと」

「……その辺はまぁ、反論の余地も無いんだがな……」


 重ねて言おう。

 季節は夏。

 しかも期末試験も終わり、一週間後には二ヶ月続く夏休みが始まる。

 そしてその間の期間は……一部の学生を除き大々的な社交イベントの日々となる。


「………………っ!」

「ウザイン・ナリキンバーク! そろそろ観念して馬車に乗りなさい。フラウシアが荒ぶってわたくし一人じゃ抑えられませんのよ!」


 ……そう、成金と言われようが雑魚と罵られようが、不肖貴族の末席に居る俺は……どーやってもこのイベントからは逃れれない。

 しかもなし崩しに聖女(候補)のエスコート役って立場も捨てられない。

 じゃないと、フラウにどんな悪い虫が寄って来るかな心配がね。

 あとライレーネとかリースベルとか、他の聖女に関してもいろいろとね。


 ……とにかく、現代人の感性じゃもっとも厳しいイベントの季節の始まりってやつなんですよ……。




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