03 夏の強制イベント (3)
諦めて参加したパーリィー……マジ混沌でした。
俺の悩み実にチンケな感じに、会場は見事に奇っ怪な仮装で溢れていた事実。
まるで何処かの国の何処かの会場で観るようなコスプレフェスを連想するが……たぶん、その連想より酷いと思う。
だって、コスプレはその恰好を楽しむ空気があるが、ここに満ちるのは謎の虚栄心か貴族に対するプライドだ。
俺の中じゃどーやってもそれが両立してくれる絵面じゃ無いので。
……まぁ、視界内の観る部分を男たちから令嬢方だけに映像加工すれば幾分はマシか。こっちはこっちで内心渦巻くドロっとしたもんはあるんだろうが、異性な分少しは夢も見れそうなんで。
さて、今回は三大公爵家の一つ、ニルフォクス公爵家に連なる伯爵家子息がホストのとこで、将来の新派閥でも狙っているのか接点の無い俺までを招待したのは、招待客の対象に下位貴族が多くしたのが理由だろうか。
大仮装大会って状況はその副産物かと想像する。
やっぱり、こういった示威行為に近い仮装は社会的実力に乏しい下位貴族ほど派手にするんだよね。そして高位になるほど、衣装は案外とシンプルで素の種族の品質の良さを示す感じに決めてくる。
ゲーム的な視点で言うと、趣味の悪すぎる背景雑魚の中に超絶美形の立ち絵を置いて、登場キャラの主役性を高める視覚効果ってな感じかね。
今日の場合はホスト役の伯爵家子息。そして彼より上位の、高位貴族数名がその対象だろう。
「……あれ、そういやホストの家名って何だったっけ?」
「ヘルメライゼ伯爵家でございます」
「ああ、そうそう」
思い出した 思い出した。
伯爵家だけど王都に屋敷をかまえるだけの法服貴族で、しかし現王宮にではなくニルフォクス公爵家に仕える私兵的な立場のとこなんで印象が薄いんだよな。
ホストも嫡男だというけど、美形でも醜男でもない金髪白人系の平凡な顔立ちで記憶に残らんし。
正直、“へのへのもへじ”とか顔面に描いてあればまだ目立つな感じだ。
……あ、でも、“キャス○ル”の若かりし頃とでも無理矢理に思えば……まだ何とか?
「……王都内限定とはいえ、鍛冶系ギルドの顔役として活動する家でございます。如何に“木偶人形”な御方とはいえ、あまり粗末には扱われませぬよう……」
「ああ、そりゃ解ってる。むしろその上の方の不興は買いたくないしなぁ」
そう、わざわざニルフォクス公爵家なんていう他の派閥のパーティの招待に応じたのも、学生同士の新たな交流をな建前じゃなく、向こうの“釘射し”要件への対応がメインだ。
最近、ウチの商会が王都内で派手に動き続けてるからね、将来的な無用の衝突を避けるためにも、その縄張りの程度を確認する気での今日のイベントというわけである。
……あくまで、俺個人の理由としては。
「まぁ、実家関係の問題は俺が対処する。
「承りました」
「……?」
「いや何でも無い。フラウたちは存分にパーティを楽しめよー」
「……ウザイン・ナリキンバーク、よくそこまで態度が豹変しますわね……」
それは影の顔は邪悪丸出し、表の顔は爽やか美少年という切り替えの事を言っているのか?………………スイマセン、盛りました。
せいぜい、雑魚いやつの立ち絵の背後に“お日様放射線”か“おどろおどろしい紫のモヤ”が有るか程度の違いだよね。
しかもどっちの描写の顔にも気持ち悪い三日月笑いの口が描いてある的な。
……ハイハイ、自覚しておりますよ、まったく。
ともあれ、実質囲うことになった聖女二名にスキャンダルの……もとい、将来の恋人候補との接点は可能な限り潰したいのが本心。
幸い、今回のパーティに直接そういった連中が来てない事は事前に確認済みである。しかし俺の記憶に無い隠し要素っぽい男が出ない保証は無いので、こうした厳戒態勢は止めれないのも仕方無し、なのである。
とまぁ、ゲーム的な懸念への対処はこれで良いとして。
本来は物語進行に無関係っぽい俺の用事が面倒臭い。
この招待のメインの話題は鍛冶関連。
しかも俺を直にという事になれば、まず主題は馬車関連だろうな。
やや古いネタとなるとキャビン環境改善のサス回り。
最新のネタとなれば馬の代わりに魔道具化したトラクター型の牽引車両。
「……さて、食いついてくるのは、どっちなんかね?」
実のとこ、サスペンション関連の情報はすでに外部に漏れている。
現物を開示したのは俺が王都入りした頃だし、その時期は支店の鍛冶設備も本格的に整備してなかったから補修部品等の情報は現地の鍛冶工房にも流れている。
能力的に一から十までの工程を全部任せれるとこが無かったせいで様々な工房への分業製って依頼になったが、少し頭の回るやつなら、それらの情報を組み立てて正解には辿り着くだろう。
例えば、その業界の元締めな立場のやつとかな。
「別に金属筒の密閉容器とか、原理と仕様に理解があるなら完動品の手作りとか無理な話じゃないもんな……」
実際、油圧システム関係はウチでの実現化でもあまり魔術に頼った製造はしていない。
乙女ゲーム世界特有の無茶な技術概念は実在済みだ。一件無関係な技術体系から“何か”を応用し、魔法という不思議思考を放棄した合理的で正統な新たな概念を獲得する現地の存在も皆無じゃないだろう……たぶん。
ふと、会場の鏡に写る自分の滑稽な姿を確認、頭上に陣取る帆船模型に注目する。
「滑車の技術は普通にあるんだよなぁ」
滑車――人力を効率良く扱うための人類最古の時期に位置する技術革命。
素の筋力で持ち上げれない物体の重量を簡単に二分割、四分割し、例えば実質100キロの物を体感で25キロの負担で扱えるようにできる。
帆船の帆など、これがなきゃ自在に動かすことすら無理だろう。
同じ構造は舵の操作にも使う。大海の負荷に負けず舵を切り、人一人で家並みにデカい大型船の方向を操舵可能にする技術とか……この世界じゃどういった経緯で誕生したんだか?
……ともかく、ちゃんと物理学の基礎的な概念は存在するし技術もある。
なのに当然のように派生するだろう方向への発展性が欠けている。
どうしてこう、この世界は歪なのやら。
……まぁ、それも含めての乙女ゲームの世界なんだろうけど。
「ウザイン様」
「ん、おう。順番が来たか」
ホストへのゲストからのご挨拶な行列。
場合によっては逆な立場もあったりするが、今回は下位貴族の将来的な就活の意味合いもあるので、下位貴族ばかりなゲスト側からの挨拶が多い。
他派閥な上に悪目立ちするウチは、そんな就活精神旺盛な連中を刺激しないよう、なるだけ最期になるように適当に会場内を徘徊してたのである。
ちなみに、ホストより上位の……このパーティの実質的な主催者たるニルフォクス公爵家の御令嬢とかは、一番最初にアイドル登場ばりに紹介されていた。
絶対に関心は持たれたくないので、草葉の陰に隠れる気分でケバい人混みに紛れたさ。
なので正直、件の令嬢の顔さえ見ていない。
彼女も直に下位貴族との接点は要らんのか……それ以降は会場内に姿があるようにも見えんかな?
別にホストと一緒にも居ないしな。
……と。
周囲の人垣も減って向こうはこちらに近寄り、こっちは下手に遠離るにも適さない空気だ。そろそろ正式な挨拶の頃合いってとこかね。
完全に向こうからの歩み寄りって形も悪印象なんで、こちらからも近寄ろう。
そして、お互いがお互いを認識し、予定調和といった形で対面。
「初めまして。ウザイン・ナリキンバークと申します。この度は晴れやかな催しへのご招待に感謝致します」
「ああ、君があの。僕はウィンストン・ヘルメライゼ、この細やかな宴の“管理人”だ――」
いやぁ、地味にホストの名前が出てこなかったんで助かった。
というか、えーと……。
無個性な印象と違い、随分と言葉の選択が怪しいような?
「――僕もそうだが、君に関心のお有りな淑女方が大勢おられるんだよ。レディファーストということで今日は是非、彼女らとの話に華やいでくれるとホストとして大変助かるかな」
言って彼のその視線が僅かに揺れる。
後追いで俺もその方向へと流して視ると……
“うはぁ……そう来たか”
そんな言葉が漏れそうになるような特殊なゲストが、しっかりと俺と視線を絡ませてきたりしたのであった。
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