40 うきうき、店内視察 (2)

 ガラス工房の他、本格的な規模になりつつある鍛冶工房、木工系の細工物とかコリコリ地道に彫りこんでる木細工工房? など、知ってるものや知らないものなどザッと流す感じに眺めて地上階へ。そして地下の有り様がどんな拡大になったかの確認に四階まで一気に上がり、唖然とした。

 何処のホテルのナイトプールだ?

 そんな感想しか出ない、南国の夜の森かな雰囲気を連想させる、非常にムーディな演出が盛られた感じの改装が施されてたからだ。

 やはり大きい板ガラスで外を眺めれる通り側の面は、まだ晴天の午前なんだから、それなり明るくていいはずだ。

 しかし、室内の明度はよくて曇りの陽差し。しかも青みの強い色調に染まってもいる。


「……ああ、色ガラスで青くしてるのか……な?」


 透明度が高すぎると外からも丸見えだしな。

 そこら辺を考えたらこうなった……的な?

 壁際には灌木サイズの様々な苗木の鉢が置かれ、室内の奥行きを誤魔化す演出つき。

 防水の床は必然的にタイルとモルタル仕様なんだが、大半は直ぐウッドデッキに上がれるような感じで、気分的には自然に接すれるのかも……しれない?


 あと、ちゃっかり飲み物と軽食のコーナーも置いてあり結構な客が利用してたりする。

 誰の趣味かは知らないが、明らかに地下のガラス工房製と解る南国風のグラスでカクテルやら果実のジュースを出してるな。

 もちろん、たくさんある木製のビーチベッドに横たわる客。それもビキニの似合う美すぃご婦人方は。ただ居るだけで場の花だ。


 そしてなるほど、兄貴の言うように妙に若い世代の男女が多いな。

 さらに言えば同性同士の集まりが六割、カップル確定の連中が役二割。後は御年輩とお子様な雑多組といったところ。


「女性は三人一組でご入場の場合、お一人銀貨一枚のところ一人分を値引いております。

 男性はお一人銀貨三枚確定ですが、三階の個室利用半日込みの場合、銀貨五枚の格安お値段となります。

 ご家族連れの場合は終日ご利用できる年間パスを金貨一枚にて。

 ただし、男性以外の客様は店内でのご飲食は売店にて別料金をいただいております」

「……お、おぅ。解説をすまん」


 居ても気配の無いメイドは時折本気で存在を忘れる。

 特に今日は、変化した支店の中に注目してたんで完全に注意が削がれていた。


「しかしなんとまぁ、露骨に出会いイベントの舞台へ演出してるな」


 しかもまぁ、かなり下世話に。

 比較して男は高い金払っての入場になるが、代わりにこの中では強者の立場だ。なんせ、女性に対していくらでも“貢げる保証”が確約されている。

 女は何か飲み食いしたければ、適当な男に“頼めばいい”。例え女性用の物でも男が仲介すりゃタダなんだから。

 その出会いから、どう発展させるかは男の頑張り次第だろうけど。

 部屋付きで努力が実れば見事な勝ち組だろう。後は……もしかしたら未来の新婚さんにおめでとうだ。


 でも、小さいお客様も居るからね。露骨に発情した行為はご遠慮くださいと注意はしたい。


「これ、本当に兄貴の発案なんだろうか?」


 嫁より仕事と豪語して貴族の跡取り放棄した“独身貴族”の強者に、ここまでの演出はできるもんなんだろうか?

 かといって、兄貴にその変をカバーしてる部下の話も聞かないし……俺の知らない面があるってことなんだろうなぁ。


 ……と。


 一応は物陰から窺い見てるんで、そろそろ別の階に行ったほうが無難か。

 いや、水着率の高い空間だしな。普段着の俺が堂々といたら場違い感がね。

 あとリア充演出やその挫折者の小さなドラマを見せられる空気がたまらない。なんとなく、爽やかな空間なのに謎のプレデターが穏形してる緊張感があるというか……?

 狩るモノと狩られるモノの共存する野生がある水辺というか?

 ……どちらが肉食かとはあえて言わんが。


 ……うん。退散 退散。

 お後は若い者達にお任せしまぁす(なにを?)


 五階の温室に上がってみる。

 なかなかにカオスな惨状になっていた。日常に役立つ薬草類や旬を無視した一般食材。下の階に置く観葉植物の鉢が並んでたかと思えば、何処から確保したんかと問いたくなる植物系の魔物の鉢まで。

 一部は一般客に開放する区画としたのか、花畑を演出した室内公園のようにもなっていた。

 ……く、カップルの砂糖な領域が目にキツい。

 そんなんで、追いやられる気分で二階に逃げた。三階のこちら側は来客用の個室が並ぶからな。ある意味、他の階より濃密なイチャイチャ臭が漂ってる気がして近寄れない。

 純真な14歳にはキビシイですよ?

 ……はっはっは、心にも無い自己欺瞞。


 二階はうちの商会が王都以外でも扱う品が置いてあるショールームだな。大物は見本を飾るだけだが、小物はサンプル品も兼ねて小売りをしていた。商会同士の話になったら別棟の方に移動して本格的な商談とし、一般客も記念にと買っていくのが意外に多いようで……


 ……んん?


 なんか、よく知る人物が居たような?


 いや勘違いじゃないわな。

 こちらの世界に縦ロールの髪型な女性は結構多いが、“アレ”はここ最近身近で見慣れた人物のもので間違い無い。


「なんでライレーネがうちの支店に居るんだか?」


 しかも一般客で。

 うちの店員……もとい接客係が着いてないなら商談で来てる客じゃない。

 一階から冷やかし半分で上がって来たかの者か、上の施設で遊んだ連中が土産探しで降りて来たかのどちらかだろう。他にもそういった印象の者達は居るし。


 ただなぁ、デパ地下のちょっと高級な雰囲気の菓子のコーナーで目移りしてる風の狼狽え方が変すぎる。

 欲しい物と財布の予算が噛み合わなくて思い悩むでも無く、唯々この空間の圧に負けてパニクってるような……?


 そもそも、俺と違い学院の授業放っといて昼間っから何やってんだか?

 一部の単位がヤバいからと、ここ最近はフラウ達とも別行動って聞いてたんだが?



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