21 ダンジョンアタック・お試し (3)
瓦礫を避けて作られた縦穴は高さ7メートルほど。土魔術で階段が作られていて移動には苦労も無い。
が、手摺りなどは無いので油断したら下まで転落って心配もなきしも非ずか。
自然とフラウの手を取り行く。
……なんか妙な雰囲気の視線を複数感じるが気にしない。
騎士だけはさすがに年の功か、それとも単に仕事優先か。しっかりこちらに意識を向けつつも見ない振り。武士の情け、いたみいる。
七階層に下りると、そこも簡単な陣地が作られていて、魔物が上に行かないよう防衛用の人員も待機していた。
「リリィティア様、付近に魔物のいる反応はありません」
「ありがとう、私たちはこれから新人の階層攻略として10階層を目指します。行程の進みは未定ですが、三時間ほどの予定で帰還しますわ」
その内の一人に言付けをすると即出発。
ルートはリリィティア様と騎士が知ってるようで、行動に迷いの無い足取りだ。
また7階層に限るものか知らんが、通路の幅も高さもたいしたもんだ。象くらいなら三列並びで行進できる。これなら最初の陣形のまま余裕つきで動けそう。
……逆に言えば、この通路サイズの魔物が敵ってことなんだろうが。
「常に迎撃態勢を取っている場所なので今は魔物もいないでしょう。ですがおそらく、10分も移動すれば遭遇は避けられません。全員、そのおつもりで」
「了解です」
とりあえず、俺が代表して返事しとこう。
フラウとメイドは俺に従う形で基本動くし、リースベルは初めての戦闘環境にか自分なりの警戒に今は忙しそうだ。
「先ほども言いましたが、ここから25階層レベルの魔物が出ますが、私と守護者で充分に対応できます。数回は私たちで処理しますから、それを参考にウザインも参加するようにしてみてくださいな」
「了解です。こちらへのご配慮、いたみいります」
……ふむ、一応は俺達を気遣う方針だったと。
ならさっきみたいにイタズラ気分で不審がらせることも無かろうに、だよ。
ま、余裕をくれるなら有効利用しましょうか。
実はさっきから俺の魔力領域が妙な反応をしていて気になってたんだ。
結界としても機能する俺の魔力領域は、俺を中心にだいたい半径10mの球状に展開している。しかし足下から地中にかけては反応が悪く、完全感知が可能な範囲は上半分の半球状といった感じになる。
もちろん、複数階層の建物なんかで下に空き空間があるならそこは普通に探知できるし、水中に潜っている時などになると、少しは精度の低いものへと変化したりもする。
まぁ、なんだ。
基本的に対空レーダーっぽい感じで、物体の密度の濃い場所には普段以上に魔力を込めないと阻害するような負荷があるってことなんだろう。
そんな事例に比べてみて、現在の探知は通路内だけにしか反応できてない。窓なり空気穴なり連結している空間があるなら通路の壁向こうにも探知は伸びるが……どうもダンジョンの壁や床は俺の魔力領域を拒絶し、探知不可能な状態へとしているっぽいな。
「こりゃ、ちょっと面倒な環境かな」
あ……でも。
通路や床の一部に探知可能な凹凸があるか。
移動の途中でそこに近づけたので注目すると、見た目の変化は無いがその奥に何かがあるのだとは解った。
「リリィティア様、少し、付近のチェックをしてもいいですか?」
「はい? 何か罠でも見つけましたか?」
「おそらく、まだ確証は無いですが」
そう、俺が見つけたのはそんなとこだろう。
どれも通路に対して小型な窪みだし、隠し通路的に奥行きがあるものでもない。
一人前進し、壁にある部分を剣の先端でいじくり回してみれば……やっぱり罠のスイッチだった。
“カコン”と軽快な音と共に掌サイズの石面に少しヘコみ、さらに前方の床が擦れるように消えて穴が開く。
「落とし穴、だな」
幅だけは通路一杯あるので作動したら回避は無理だろう。長さは……約3メートルほどか。
いちいちスイッチで作動とか無意味だし、蓋の位置にもスイッチ的な機構があると推測しとく。
「こちらの通路は普段使うものですか?」
「いえ、階層移動のルートからは外れてますね。確か…この先に宝物庫とモンスターハウスの報告を聞いたと記憶してますね。しかし行き止まりなので、金策以外には使わないルートです」
「ああ、なるほど」
仮説を一つ。
この通路は行きは反応しない。しかしその時に通過重量が記録される。
そして帰りにその重量が重くなっていた場合、パカンと蓋が開いて罠作動とかかな。
宝物庫は、いわゆる宝箱がある場所で価値あるドロップ品が出る。モンスターハウスからは倒した魔物のドロップ品で以下同文。
どっちにしろ生還者が重い荷物を抱えている可能性が高いわけだ。
……いままで作動の報告が無かったってことは、チェックされる荷重変動の幅が大きいからとかなんじゃ……かな?
そんな思いつきをリリィティア様にも伝え、この件は終了。
ちなみに、5メートルほどの深さの穴の底はスライムの池と化していて、落ちたらまず助からないパターンとみた。
前回の犠牲者が何時かは知らんが、落ちた者は完全に溶けきったようで痕跡も見つかっていない。
もしくは、死んだ時点でダンジョンに吸収されたかだな。
とりあえず試しに使った探知の魔術の成果だとだけ伝え、以降も危険そうな場所があれば言うようにしておく。
現状の俺の探知で魔物も見つけれるなら心配は無いが、それがダメでも、ここの索敵に慣れたリリィティア様の方に専念してもらえば良いだろう。
……それにしても……
もう移動を初めて10分などとうに過ぎたが、いまだに魔物の気配が無い。
落とし穴の底にいたスライムは階層に関係無く最弱レベルのようで、周囲の魔素とそう変わらない反応なので逆に探知が難しいという……。
そのあたりの疑問をリリィティア様に投げてみると――
「そうですね、もう遭遇してもおかしくない位置に居るはずなのですが……」
――と要領を得ず。
まぁ、調査をし続ける場所にテンプレを望むのも無駄だし。いまは“こんな状況なんだ”と思うしかないか。
警戒はそのままで、移動……
移動……
……いどう
……なんか、無事に八階層への階段に着いたぞ?
「……(じー~~~)……」×4
フラウじゃないが、つい視線に意志をのせて向けてしまう。
さすがに、こうも平穏に移動ってのは如何なものか、と。
「わっ、私もこの事態は初めてです!」
申し訳無いがリリィティア様しか責めれる人がおらんのですよ。諦めてくだせい。
それにしても何だろう、この肩透かし食らった緊張感の行き場が無い気持ち。
弛緩した空気は状況的な拙いとは解るんだが……感情だもんなぁ、仕方が無い。
こうして、俺達はなんの戦闘も経験せずに八階層へと下り立つのであった。
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