07 図書館へ

 試験休みも終わり通常の学院生活が再開した。

 ダンジョン関係はまだ落ち着いてはいないようで、学院内では実力者の扱いとなるブレイクン先輩、メルビアス先輩は忙しい日々になっているらしい。

 神珠液しんじゅえきの裏取引で何かと接点が太くなった二人からは、本来は極秘扱いのそんな裏情報も得られるようになった。

 別に俺が聖女の恋人候補をNTRのつもりも無いんだが、貴族社会の嗜みとして繋いでおいて損の無い関係はある方が良いとの、この状況。

 いやまぁ、下手に女関係のプライベートが多いよりは、同性の友人関係が多い方が気が楽なんだがな。


 だが上級生との知己が増えた反面、同級との接点が皆無なのはなんともなー。

 さすがは悪名高いナリキンバークか、体良く借金狙いの接触は多いんだが、俺個人との友人的な接点は皆無という……。

 なんか少し、哀しいね。


 あと何かとフラウシアら三人の聖女候補が身近に居ることも多くなったので、美少女を侍らすリア充野郎氏ね的な視線を向けられる事も増えた。

 まぁ、こっちは何となく、少し気分が良いものだ。

 ふはははっ。その暗くキモい怨嗟の眼差し、もっと寄越すが良いっ。


 で、そんな現状なので〈ローズマリーの聖女〉関係で俺自身が情報集めをするのも限界かと思うようになってきた。

 学院内のイベントで負けの醜態を晒す事で累積するだろう破滅の未来を回避するため、パワーな地力をつけて対処ってのが失敗だったらしい。

 とにかく、何かにつけて目立ってしまっている。

 それがフラウ達、俺と交友をもつ聖女候補への害虫避けになってる部分は良いとして、自分の身動きすらも制限してるのは無視する事のできないデメリットなんだと、ようやく自覚した俺だった。


 なので現状、俺付きの配下であるメイド隊を主軸の調査班とし、各恋人候補達への情報集めにあてている。

 これでまぁ、いまだ対面すらしてない連中の情報も得られるかもだ。


 ある意味、意外にも普通の学生生活ができそうな俺。

 そう自覚すると、不思議とこの世界の学業にも興味が湧かないでもない。

 ただ、現状の座学の過程は家庭教師時代のそれをなぞる感じなので物足りない。だが専攻科目を変えてフラウシアと離れた授業になるのは……少なくとも今年は避けたいというのが本心でもある。

 友人が増えたとはいえ、まだ俺との距離感に変化も無いし。


 その妥協案として。

 空いた時間をより専門的な資料のある場所に置くことにしてみた。

 具体的には、学院内にある図書館の利用だ。

 広い敷地のトリシア魔導学院には四つの図書館が存在し、それぞれが学院校舎とは別の施設として独立している。

 図書館は時代毎に増えていて、それぞれに収められている貴重な資料は違う。学院に集まる知識を纏めてきた場所なので、その歴史が続く限り新たな図書館がこれからも増えるのだろう。


 図書館は俺の使い魔関係の情報集めでメイド隊を放った場所でもあるはずなんだが、まだ良い成果の報告は無い。有能な彼女達が苦労してるのは想定外というか。

 だが途中経過を聞いてみるに、学生以外に開示可能なものに随分と制限があるためと仕方の無い単純な話でもあったのだ。

 今はメインの調査範囲を他の場所に変えているそうだ。それが何処とは詳しく聞かない。聞いたらたぶん、怖いし。

 で、情報集めに学生への制限が無いなら自分が行くのが面倒が無い。

 フラウシアの座学の復習にも便利だし、そちらを片手間に自分の欲求を満たすのも良いかなというわけだ。


「ウザイン・ナリキンバーク。使い魔の情報となれば、魔術書よりも伝承系のジャンルでしょうね」


 そして、何故か同行してくるライレーネ。

 同じく同行メンバーと思っていた最近餌付けの済んだリースベルは今回は不参加。例のダンジョン騒ぎで戦神神殿から待機命令が出てるらしく、学内の空いた時間は何時でも即参戦可能なように命じられていた。

 何に参戦とか深くは追求していない。聞けば巻き込まれる臭いがプンプンしてたので。


「ライレーネは図書館に詳しいのか?」

「神殿で教わる以外の魔術のため、入学当初にちょくちょく来ましたわ。……ですが……」


 なんでも、資料の内容が難解過ぎて断念したらしい。

 さもありなん。本来なら学生続けてある程度の教養を収めてから役立つ施設だろうしな。


「そういや、“トリシア備忘録”に記録がある的な話は聞いたか」


 備忘録ってタイトルから察するに、ここの初代学長が残した私書の類いか。

 魔術書の体裁をとれない雑学ネタを集めたものか、もしくは彼女の個人的なメモ帳なのか。

 過去の偉人はプライベートの事すら赤裸々に暴かれる。

 なんでもかんでも尊い記録扱いってオブラートの元に。

 俺の場合は確実に黒歴史の域を出ないだろうなー。ま、うちの実家的には相応しい気もするが。

 もちろん、全力をもって隠蔽か抹消する所存のものでもあるが。


 さて、ライレーネの考察を元に司書のいる受付に行き、使い魔自体の話は濁して初代学長関連の資料の場所を聞いてみる。

 もっとも、使い魔のチャカは俺の側を離れることなく、俺の制服の胸元に潜り込んでたりフラウの肩や頭に居たりするんでバレバレな気もするが。


 美少女ブラス手乗りウサギの構図なんて尊い物は隠さないよ。当然。

 むしろその尊さは広めたいね。近寄る虫は潰すけど。



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