37 中間試験 魔術(2)
試験官に指示された立ち位置に行くと、遙か前方に見学中には見えなかった標的のような印が宙に浮いてるのが解る。これは試験官が俺にだけ見せてる幻影で、魔術を命中させる目標なのだと教えられた。
また魔物が出た場合はその方向に矢印的なマークへと変わる。その場合は俺の判断で対処は決められ、対応しきれない場合は、試験官がサポートに入ると。
……ふむ、一応は仕事をしてるわけだ。
できれば、もっと仕事への意欲を見せて、リリィティア様に変わって全てを采配してほしかったが。
さて実演開始。
最初は基本の属性魔術の試射を各属性で一通り。聖属性のとこで背後から小さな歓声が届く。
……ふむ、俺の記憶だと全属性は聖属性も含めての内容なんだが……、神殿関係の変化と共にこのあたりの解釈も変わってるのかね?
次に中級、応用と続くのかと思ったら、自分の判断で実戦用と思う威力のものをという支持になる。
「……ここからか、魔力の自己管理ってのは」
俺が解説貰いながら見学したことで説明不要ということらしい。
ただね、この間自分の魔力の総量を確認した時点でちょっとやそっとじゃガス欠しないのは解っている。
そしてだ、俺が使うのは基本、魔術ではなく魔法だ。その正体は、自分の魔力結界内で魔術的現象を設定しているのが一番近い形なんだと認識している。要するに実在同然に作用する夢の空想空間を絶えず展開してるようなもんだな。
自分にのみ可視化した魔力結界。今回の標的はやや遠いので、手を伸ばす感じに感覚を広げると……結界の一部が泡のように分離し、その標的を包むのが解る。
分離したといっても完全じゃないな。湾曲したパイプのように管状の結界で連結はしている。
つまり、俺の魔法を放つという意識は、目標地点を自分の魔力の領域に書き換えている行為というわけだ。
ちらりと背後を確認。
試験官も含み、誰もこの変化に気づいてる様子は無し。
んんん?
この触手を伸ばす的な変化は感知の外の効果なのかね?
実のとこ、最近はMP無限大な感じなので本気の魔力操作がおざなりになってんだよね。こうした意識で使うのも久しぶり。というか高威力の魔法が使い辛くて、気づいた後では初めてでもある。
……で、さてと。
実戦用の威力で、まずは火属性からと……
前にやったようなガトリングもどきの無限連発よりは、ドカンと一発大きい方がいいか。
というか、あれ本当に無限に撃てるから止め時が解らない。連射こそキモのやつだし、中途半端に止めたら評価として低そうとも思えるし。
でも……悩むな。
爆発系の〈
それに実用って解釈が微妙だよな。実家に作ったクレーター跡は、ある意味撃った後の被害が大きくて面倒事になったのだし。
実用的 実戦用……、ああ、それじゃ前世で実用化された現物を模倣してみようか。
……と、標的の形が変化。矢印と化した方に視線を向ければ、先ほども見た魔物〈ディスペドン〉のご一行8体ばかしが接近してくる最中だ。
これは、丁度良い。
魔法の発動範囲を微調整。魔物の進行速度からやや手前を設定し。イメージ優先で発動。
俺の魔法に対する意識が変わったせいか、コマンド表示は一歩遅れて、発動、効果確定の時点で記載されていた。
効果範囲、前方を円形に覆う直径60mほどの領域。火属性ではあるが、機能としては空間内の電磁振動波。
んー……、気づいた時には手遅れ的に、即死範囲は中心域の20mくらいにかな。それより外は変化を自覚した時点で麻痺る威力で。
で、記載された名称は……〈
魔法の効果は、ルビの読みで全てが語られてるというか。
要するに一定範囲内が電子レンジの状態になるものだ。
水気のある動物なら体内の水分子が超振動を起こし発熱。熱水化、蒸発の過程を経て破裂する。それはより時間を過ぎたら発火点すら超える振動となり着火。後は程良く水気を飛ばして乾燥したものを火種に、灰になるまで燃え続けるだろう。
既存の火の魔術と違い、外側からじゃなく内側から発火ってとこが威力あるよな。
いくら生命力の高い魔物でも、体内から燃え始めたらそう簡単に再生や回復はできんだろう。
……というわけで。
罠と呼べる範囲にゾロゾロ入って来たディスペドンはものの数秒で目玉がポン。全身から湯気出して水脹れを作ったかと思えば、あっさりと絶命した。
おおよそ想定どおりの効果である。
ただ絶命後も、内臓の破裂で腹が裂けるまでは魔素に還元しなかったとこからして、死んだと思った状態でもまだ生きてたって感じなのかもしれない。
凄いもんだな、魔物の生命力。
「おっと、ちょっと失敗したか?」
その場ででっち上げたもの故か、範囲設定にミスを発見。地上直ぐ上か地下までを範囲にしたのか、地面の草原にも影響が及んでいた。範囲内が綺麗に枯れてしまっている。
まぁ、試験官には良い目印にはなるかもだけど。
「ウ……ウザイン君。この魔術は?」
「見た目の効果は大人しいですが、一応は火属性の範囲魔術になります。効果範囲は枯れた草の広さを参考にしてください」
「大人しい!? 火属性? 毒素の空間を作ったのではなく!?」
……やっぱり見た目の変化が無いと認識し辛いか。
というか、レンジ効果の説明が面倒だな。
適当にコジツケルか。
「ええ、範囲内だけを超高熱の熱波で覆ったものと思ってくれて構いません。火魔術特有のの派手さは無いですが、代わりに隠密性は高いので罠代わりに設置しておけば勝手に入って来て倒せる感じですね」
確か、米軍の試作兵器だっけか。
専用機材で照射する事で、野外の一定空間をこんな状態にするのだ。サーモや暗視の視界には反応せず、ただ、その範囲内に入った生物のみ高熱化してぶっ倒れる。敵の歩兵は突然焼かれる感覚を感じるものの、その時点でアウト。高熱で痙攣する肉体では待避もできず、じっくりと焼かれるしかない凶悪兵器だ。
それでも建前は“地雷より健全な兵器”だとか。
まぁね。地雷源の後処理の面倒さに比べれば、発生源の機材をどけるだけでいいんだからエコな兵器と呼べるだろう。
「発生の確認が解りにくいので、魔物が標的になってくれたのは幸いでしたね」
「そ、それで、魔術の効果はもう消えたのかね?」
「いえ設置型なので。発動の魔力分は持続しますね。現状は、解除の指定をしなければ6時間くらいは続くかと」
「直ぐに解除してっ、次の属性に影響する!」
「あ、はい」
……別に、こんだけ広いんだから他の位置で続ければいいのに、と思うのは変なのだろうか?
発動設定は決めたつもりだが、初めてのものだし経過観察したかったんだがなぁ。
こんな場所での試射とかも滅多にできないだろうし。
ふと、背後から視線を感じたと思い振り返ると、見学者ご一同、何とも表現し辛い表情でこっちを見てたりする。
いや、気づいてない振りはダメだな。
たぶん、大体、ドン引きされてる雰囲気に満ちていた。
まぁね。魔物が近寄って来る途中でバタバタと倒れて、ビクビク痙攣しながら全身のアチコチからパンパン弾けて死んでくってのは……インパクトが大きいだろいしね。
うん、俺も概念だけ真似たら酷い結果になって内心驚いたし。
ああ、そうそう。
ドロップ品は俺の足下に転がる事無くアイテムボックス内に収納されたので、その中から魔石と一部素材を改めて出して転がした。
一応、アマーリエ先輩の時の光景を参考に偽装したので、面倒事に気づかれてはいないと思う。
……でと。
そいじゃ、次の属性からはどうしたもんかね?
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