36 中間試験 魔術(1)

 さて、魔術の実技試験の内容は……普段の魔術の授業と同じく射撃のスタイルでいいらしい。教師の代わりに試験官の指示に従い、各属性の魔術を放つ形だ。

 授業と違う部分としては、撃つ属性のものにオリジナル要素をどんどん入れてくところ。要するに自分の一番威力のある魔術を放て、だな。

 その威力の違いが、試験内容の得点の評価にもなる。


 学院規準の初級、中級、応用などなら、ほぼ学内の防護結界で防げる。しかし、ここに居る者達の性能だとそれも怪しい。だから異空間のダンジョン内という、被害を考え無いで良い環境を使う。

 ……なんでも、前に俺がミスリルの甲冑人形を壊しまくったのが問題になったのだとか。

 どういった原理で再生してたかの説明は無いが、壊した分の被害はちゃんと算定してたらしい。


 ……そういえば、アイテムボックスに貯まったミスリル鋼材、使う予定も無く放置してたな。今度、何かの使い道でも考えよう。


 あと他の試験場と違う仕様をもう一つ。

 ダンジョンの入り口近くとはいえ、強力な魔術をポンポン撃ち続けていると、それを感知して魔物が寄って来ることがある。

 その魔物は臨時の標的の扱いとなり、速やかに始末するのが暗黙の了解とのこと。

 ……うん、ダンジョンだからこその仕様だなー。

 その時に得る経験値やドロップ品は、ちょっとしたお小遣いの扱いだとさ。


「お、ちょうどその実例だ」


 流れというか何というか、俺のガイド役になってしまったブレイクン先輩がそんな言葉を放つ先には、名も知らぬ先輩女子が実演中。しかも魔物も登場したとこで、詠唱途中に目標を変えての対応中であった。


「おお、凄い」


 魔物は全高1mほどのゴリラ歩きのイノシシといった外見で、先輩からは〈ディスペドン〉という名だと教えられた。

 性能はゴブリンと大差無いが、大きな腕の怪力と牙付きの頭突きには要注意。何より集団行動が基本で最低五体は一緒に現われる。

 魔術にしろ武技にしろ、実用的な範囲攻撃ができないと相手としては厳しい相手ということで、浅層の割には強めの魔物と認定されている。


 ところが、女子学生はそれを魔術一発で無力化してしまった。

 氷の槍を複数本射出するもので、〈アイスランス〉の応用系とは想像できるが威力は段違い。串刺しになった命中箇所は完全に凍結したっぽく、攻撃を受けても動こうとした影響で氷った傷が破断。大出血を伴って早々に失血死な感じである。


「あれは〈アイスランス〉の上位応用〈コールドランス〉を、さらに範囲化させた上級魔術の〈コールドレイン〉ですね。アマーリエ独自の改良が入りオリジナルとは言えないそうですが、威力はオリジナルより上がっているそうですわ」

「さいで……、いや、そうでありますか」


 で、何故かリリィティア様まで俺と一緒に行動している件。

 もちろん、リリィティア一派的な令嬢方も付属中。

 ここらへんがブレイクン先輩のガイド役の大きな理由かな。なんかリリィティア様の眼光一発で決まった配役だった。


 ……ブレイクン先輩、立場上、確実にリリィティア様派閥の配下だもんな。

 将来的にはヒースクラフト王太子の部下であり、聖女を巡ってはライバルにもなる重要人物のくせに、今は悪役令嬢の一部下な有り様。

 体育会系っちゃそうっぽいが、なかなかに哀れな雰囲気。

 ……まぁ、こんな毒蛇の群れの中に放り出されたくないので、一蓮托生にする気まんまんですが。


 アマーリエと呼ばれた先輩女子がこちらの惨状……いや状況に気づき、その場を開けようとするのをリリィティア様が制止。そのまま彼女の試験を参考に俺への説明が続く。

 アマーリエ先輩の様子から緊張はしてても怯えてはいないようで、リリィティア様の行動は通常運転の範疇なのかと推測しとく。

 とりあえず、一安心?


 実演を観察していて解ったのは、さすがはダンジョン、魔物の出現頻度が多いというもの。そして仕様は〈ローズマリーの聖女〉中のものと言う事だ。

 倒しても死骸は残らず、魔素に還元して散って行く。ドロップ品は倒した者。この場合はアマーリエ先輩の足下に発生していた。


「ふむ、倒したら確実に出るわけでは無いのか」

「やはり、気になりますか?」

「下位貴族は貧乏性です。己の行動に成果を結びつけがちになります」

「そうですか。確かこのダンジョンでは、素材系のアイテムはランダムに。でも魔石は必ず落とすかと。合ってますか、ブレイクン?」

「はっ、その通りにございます」


 はい、改めて各自の立場を確認しました。

 どうも今日の俺は、貴族の階級抜きにしてのゲストな扱いのようで。

 でも不遜な態度は無理だけど。

 そのあたり、俺の本能が警鐘乱れ打ち中。


 何と無ーく不穏な空気の中、試験官だけが平静に指示を出す。アマーリエ先輩は魔物の闖入で度々中断しつつもそのとおりに魔術を披露し、最後に、今の彼女に使える最大級の魔術を使って試験完了になるらしい。


「一日に集中的に行使できる魔力量の配分ができているかの、自己管理能力を試験でもありますね。魔物へと余分な魔力消費もありますし、最後に最大威力というプレッシャーもあります。こればかりは経験が無いと残念な終わり方になりますから」


 ふむふむ。明言は無いが、大概の学生は最後にガス欠っぽい自慢の魔術で赤っ恥をかく可能性が高いと。

 しかし魔物の登場はランダム性のあるやつだし。

 自己管理と経験則と運、結構大変そうな内容のようだ。


 ちなみに、アマーリエ先輩の最後の魔術は広範囲氷結系のものだった。スケートリンクが一瞬で作られた感じである。

 どうもこの先輩の得意な属性は氷っぽいね。


「では次はウザイン様ですね。ご準備は何か?」

「大丈夫です、このまま行けます」


 当然のようにリリィティア様の仕切りだよー。

 逆らえないよー。


 て言うか試験官。指示役、アンタの仕事だろうに……とは言えないままに、試験開始だ。



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