38 中間試験 魔術(3)

 実戦用を想定しての、水属性から再開して風・土・雷・闇・聖の披露は、結局は(自分基準で)控えめな感じになった。

 水は既存の〈フリーズボール〉という魔術のアレンジで、元はソフトボール大の氷る寸前の水の泡を命中させ、相手の体温を奪って行動阻害という機能の上に、ホーミング機能を追加したもの。

 アレンジ部分は狙った相手に向けて飛ぶのに加えて、命中したら身体の表面を這い回り呼吸器を塞ぐ位置で固定する感じにしたのだ。


「これで敵を凍えさせるのにプラスし、窒息の効果も狙えます」


 ドン引き対応も、若干プラス。


 土は無難に〈ピット〉の落とし穴効果にアレンジ。

 基本は標的の片脚が膝まで埋まる程度の穴が一瞬で開くのだが、この時の反応で遅延式の段階変形をするようにした。

 倒れる方向に対象の堆積分、穴が広がり、衝撃に反応して埋まる。

 理想としては、相手の上半身はスッポリと埋葬ってとこか。倒れた体勢によっちゃ自力で起き上がれずだろう。発動工程が長いから、あまり敵が多い場面だと使い辛いかな。

 コマンド一覧には〈墓穴グレイヴピット〉とそのままの名称で記載された。


 魔物で実演できれば良かったんだが都合良く現われないので口頭で説明。

 試験官一同、またも引かれる反応を貰ったのだが、何故かリリィティア様のみ非常に興味を抱かれて、ブレイクン先輩をサンプルに実演する羽目に。


 事前の説明も合って勢いよく転びはしないが、それでも身体のサイズの穴に嵌まるのは思ったより行動阻害となるらしく、設定した効果中に対応しきれなくて見事に埋まった。

 地面から天に向けて伸びた両脚がジタバタと足掻く様に、リリィティア様ご満悦。


「もっと逆立ち風味を強調するよう、穴の開き方を調整したほうが良いかな?」

「ではまたブレイクンに試させましょう」

「速く救出してあげなさいっ!」


 俺の意識は、既に試験というより魔法のアレンジ考察に傾いてたりする。

 この場の支配者たる悪役令嬢が同好の志なのも心強い。

 なのに試験官のみ、キレつつも冷静に突っ込んでくるのが不思議に新鮮。

 ……あとブレイクン先輩、お疲れ様ッス。


 雷属性の扱いは少し困った。

 これは多分、俺の電気に関する認識の違いが致命的なせいだろう。

 ……この世界の雷攻撃って、光速じゃないんだよね。SFのビームのような、感覚でいうと、音速といい勝負なんじゃな感じ。だから撃っても外れるなんて事態もある。


 ……感電はするくせに、感電のプロセスが違うという……。


 で、俺の出すものはその違和感が無視されてしまうのだ。

 ファンタジーの雷より、物理の電気って成分が強いっぽいよ。

 通電経路を魔力的に強制の誘導とか意味不明な手間が要るが、発動させれば必ず当たる。稲光が横に走る感じだな。設定がいい加減だと、距離が空くと導線途中で地面方向に枝分かれしやすく威力が下がる。一応はアース効果が働いてるらしい。


 また、そのお陰で自然作用の感電防止も機能するようで、魔物への致死効果も薄い気がする。ウロコや爪といった硬質化した皮膚構造や防護性の高い硬めの毛皮は、それだけで身体の内部への通電を防ぐアース機能に優れている。高電圧の電気が表皮で止まって地面に逃げてしまうのだ。

 必ず命中しても相手を多少痺れさせるだけんじゃ、実戦用とは呼べないわけで。


 やっつけの想像じゃ解決しそうになかったので、結局は他の属性まで使い回しのその場凌ぎになってしまった。


「……ウザイン君。“あれ”は何だね?」

「芸が無いですが、また罠成分でのものです。〈サンダーウォール〉アレンジ版の設置型と認識してもらえば」

「特に、雷の壁が発生はしてないようだが……」

「ですから、罠です」


〈サンダーウォール〉は甲冑を装備する騎士などに効果が高い妨害魔術だ。一定範囲に雷の壁のように展開し、通過しようとすれば感電して大火傷だ。

 あくまでファンタジー解釈でだけど。


 対して俺が出したのは、範囲内の領域上空に雷雲の帯が走り、その雲の合間を一定間隔で巨大な氷塊が浮かんでるという見た目。

 なんとはなしに、お天気図形の3D表示なイメージ?


「雷雲は壁の範囲を示し、またその下の地面に対し誘電路を固定する起点として――」


 つまりプラスの電荷の発生点とマイナスの電荷の発生点を無理矢理設置したようなもんだな。本物の雷雲には全然物足りないサイズなんで、発生する電荷に期待する威力は無い。

 で、それを補うのがあの氷塊。見た目ただの氷塊だが、アレは圧縮しつつ全体を捻り異常な分子摩擦が起きる状態にしている。つまり即席の発電機だ。蓄電されたものがあの位置でギリギリ放電しないようにも設定している。

 そして、その下を何か異物が通過しようとした時に、そのバランスが崩れるようにも。


「――魔物なり何なりが下に来たら、一応は天然の落雷に近いものが落ちる仕組みですね。あまり連発は利きません。最初に数発、不用意に近寄ったバカを派手に感電死させて、あとは威嚇効果を示す感じのコンセプトですか」


 まぁ、失敗作だなー。

 どうせ複合属性にするんなら、土と合わせてレールガンとかな方が効果的かも?

 魔法による砲身作成にどれだけコスト食うか未知数だけど。


「……では魔物を待つのも退屈ですし、ブレイクン、アレのテストを――」

「さすがに勘弁してください!」


 まあ、天災と同規模のダメージは嫌がるよね。

 そしてリリィティア様、マジに鬼畜。さすが悪役令嬢。



 闇属性は精神部分に作用する弱体効果が基本なので、これも標的に試射の形だと効果は解り辛い。一応は胃腸に心因性中毒症状という精神効果を生む闇の弾、〈尊厳破壊キルプライド〉なるものを設定し、説明はした。


 撃たれて発動する効果への抵抗に失敗したら、吐いて漏らして意識は混濁し悶絶という下りでほぼ全員が顔を青くする。

 そして、やっぱりリリィティア様一人が喜色に満ちた反応をなさる。


 ……なんだろう、実用性を求め自分で想像し作った魔法とはいえ、その酷い結果を全肯定の態度なリリィティア様に、俺の中の警鐘が鳴り止まないんだが?

 おかしいな。

 多少、普通の御令嬢の感性なら嫌がる反応も期待してたんだけど。

 主に、俺との接点を減らしてくれると想定して。

 対象、リリィティア様を想定して。


 だが現実は……完全に真逆の様相。

 仕切りの行動以外、最初は無表情、無関心な雰囲気だったのに。

 今はもう、積極性を隠さずな態度が出てるよな?

 実はこの流れってリリィティア様の琴線に触れるとこ?

 そういった趣味の御方ということぉ?


 ヤバいなぁ、こりゃ失敗したかもだよ。



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