27 王都散策
さて、無難に冒険者風の格好におさまって街に出ようか。
最初は市場調査がしやすいかなと商人の格好をしてみたんだが、年齢の割に老獪な印象の腹黒商人とか、商人に扮した暗殺者とかの身内評価をいただき断念した次第。
正直な感想自体はありがたいが、もう少し、主人を敬う言い方は無かったのだろうか。
そりゃ、ウザインの容姿は三下の雑魚なんだけどさぁ。
冒険者の衣装は新米が着るようなもの。
頑丈な布の服に要所を堅革のポイントガードで守る風だ。
日常的な動きやすさを阻害しないし、ちょっと荒めの動きで怪我もしそうにない。布地だけでも犬に咬まれた程度じゃ破れないそうだ。
案外高性能なんだと感心する。
武装は両刃のショートソードと片刃の短剣。盾無し。コンセプトは街中の雑魚い依頼を頑張る新米冒険者。俺の外見的にそれが正解ということらしい。
……深くは追求せん。
移動は別邸と支店のある地区から王都中心の王城を挟み相対する地区にした。
万が一にも、俺の正体が露見しないようにという措置である。
ついでとばかりに右目にナンチャッテ海賊風の眼帯。前髪もたらして目元全体を隠す風に印象を変えている。
同世代に比べて長身なのは目立つと思ったが、顔を隠して年齢不詳気味にしたので“栄養の足りてない貧乏冒険者”に見えるから大丈夫とのこと。
サムズアップ付きの保証は要らん。なんか哀しくなる。
ともあれ、ようやっと散策(?)だ。
なんかお忍びというより潜入工作っぽい準備だが、散策だ。
ちなみに、単独行動は許してもらえない。
背後に陣取る斧戦士、魔女風の格好に扮したメイド隊のオプションつきだ。
あらあら不思議、普通に冒険者パーティには見える。ハロウィンの仮装風とも言うが。
ただ、冒険者には見えるけどさ、如何にも郊外で魔物狩りますな構成で街中を行くのは正解なのか?
そのあたりを問いたいが、問うても絶対流されるだろう。
俺に絶対の否定情報が無いのが辛い。前世のファンタジーな冒険者の知識です、じゃ通じないだろうしな。
さて実演。
ふむ、確かに変な注目は浴びないか。
大通りだと大概は値踏みの視線。“こいつ金もった客なのか”な感じ。裏道に入り町人ばかりの中に入っても、“なんか依頼で動いてる”的な関心ていどに収ってるようだった。
「なるほど、適正な変装だったんだな。さすがだ」
「(ぺこり)」
いや、その格好でメイドっぽい反応は要らんから。減点1
目立たないと解れば気も楽だ。早速気になってたとこを調べよう。
市場の露天を見て回る。市井中心なので食品が多いし、時折市民の菓子関係もあるっぽいので丁度良い。
「んん? やっぱり砂糖菓子関係は弱いのか?」
「一般に出回る物は黒糖か麦芽糖が中心ですね。白糖の類いは貴族専用と見てよろしいかと」
「なるほどな」
やっぱり製造単価が高いのかね。
まあ栄養の面で言えば黒糖の方がいいんだけども。
塩でも砂糖でも、あまり単一成分率が高いと摂取過剰で身体を壊しやすい。高血圧で塩分過剰、血管の中で塩の結晶化とか極論で末期過ぎな話だが、それも精製塩と粗塩で発生限界が変わるし。ミネラル成分の比率で結晶化抑制とか意味はよく理解してないが。
少量で雑味の無い味の表現とかには、精製系が便利なんだがなぁ。
見つけた菓子の露天にあるのは、カステラ生地のキリタンポといった風の棒菓子。実演販売な感じで、棒にトロミのある生地を塗って携帯コンロでの炙り焼き。見た目はもう、焼き鳥のそれだな。
そして現物はバームクーヘンと同じだ。塗っては焼き塗っては焼きを繰り返せば、その物バームクーヘンになるだろう。
絶対手持ちで食えるサイズにはならんけど。
全員でお試し実食。砂糖類は入れてるか怪しいな。小麦粉自体の自然の甘さに頼っている。しかし焦げの香ばしさと細やかな苦みが、舌に甘さを実際のもの以上に感じさせる。またジャム類のオプションも選べるので味のバリエーションは意外に高い。
いいねー。俺としちゃ派手な甘さよりこうした素朴さの方が好みだよ。
余談だが、棒菓子の露天の隣が調味料扱いで、実のままのスパイス類に混ざって粉にしたり練り物にしたりの試供版も置いていた。
シナモン系、甘味噌っぽいもの、ソースにしか見えないやつと置いてたので、ちょっと小銭を払って菓子に塗らしてもらったよ。
感触としては、まんまキリタンポというかお好み焼き風というか。妙に駄菓子が懐かしくなる味に化けてくれた。
うん、いい試食だったねぇ。
幸先のいい散策である。
ん?
後のメイド隊も試すのかい。というか、何故唐突に頭痛が的な態度をとってるのかね?
後日、知らぬ間にやらかし案件に増えてた顛末。
深くは言うまい。複数の露天で協賛商品の提供っちゅう概念を放流したらしい。
その後の市場がどんなカオスと変じていくかを俺は知らない。
正確には“案件”の報告書に記載内容があるだろうが読みたくない。
もう一つ。
露天巡りの終わりに、大通り沿いに店を構える雑貨店を見かけたのだが……そこに何やら見慣れたものを。
ガラスの小瓶は随分と意匠を凝らした高そうなものになり、中味は様々な色に染められた宝石のように艶やかな……飴ちゃん。
何処の類似品かと憤って凝視したら、うちの提供っぽくて呆然としたよ。
……兄上ぇ……。
いや、確認できたのは良いことだ。
こちらも順当に暴走してんだなと。……諦観 諦観。
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