28 散策から調査へ

 少し未来を幻視した気がするが、気のせいだろう。

 内容の残念さも含めて。


 さて、散策の再開だ。

 王都の庶民の食料事情を色んな試食を交えて堪能した。

 こういったデートじみた流れはフラウシアを同行させるのが正解なのだろうが、あの子と一緒なら確実にペースは落ちる。下手すれば二店も回れば時間切れだ。そのくらいフラウは小さな事に感動し、楽しむ。

 そんな様子を全肯定するだろうしな、俺も。

 だから単独(?)で動くのが良いのだ。少なくとも、今回は。


 大通りの市場は基本的に露天の屋台売り。通り自体を歩行者天国のように専有し、売り側は毎日変わる。王都ではこうした封鎖路を都内各地に日毎に設定し、定期的な人の流れを変化させ都内全体に人を動くようにしてるそうだ。


 ……このあたりはゲームの設定には無かった部分だな。

 市場の買い物は常に一箇所だったし、店の個性も変化は無かった。掘り出し物なんかの特殊アイテムも文字選択だけで済ましてたし。


 また封鎖路とは言っても、それは馬車が通る車道の部分で、両脇の歩道は普通に歩ける。その両側の建物には通常営業の商店や商会の窓口もあるし、特に休業日になるわけでも無いらしい。ただ固定店ということで露天よりは何ランクも上の高級店といった印象だ。時に露天と同じジャンルを扱う店でも、並ぶ商品の品質では競合たり得ないのは一目で解る。もちろん、価格でもな。


「ああいった高級店を通りに含む街区は、その裏に店舗で扱う品を作成する工房を抱えていたりもします」

「工房の直営店といった感じか」

「必ずしもとは申せませんが」


 ファンタジーで言う“武器屋”な場合は俺が言った場合もあるが、“鍛冶屋”ならそうとは限らない。雑多な金物商品を一つの工房で総合的に作るってのも現実的じゃないからな。

 ただ、そういった大きな鍛冶屋を見つけたら、その付近の街区には鍛冶系列の工房が集中していると考えて良いらしい。商品の運搬に使う時間は短い方が良いしな。この程度の合理性はこの世界の不思議な生活様式でも通じるというわけだ。


 同じ理屈で、王都の外壁の外で収穫される穀物類は仕入れがしやすいよう王都の外周地区に置かれた商店が扱っているそうだ。個人消費する程度の量なら何処の市場の露天でも買えるが、キャラバンで大量輸送する規模ならば、そちらに行かないとという話。

 また、貴族用の直営店などもそっちの管轄らしい。


「理由は?」

「常時二ヶ月分の保存を心掛けるためでございます」

「ふむ、立て籠もり用か」

「はい」


 これも設定には無いが、この世界だと普通の慣習。

 王城を含め貴族の住む地域は、住人達の緊急時の避難所になる。そこに溜め込む食料は籠城用の物資な意味を持ち、定期的に内容を更新するのが義務というわけだ。

 食料は保存用であっても期限があるからな。

 別に保存がダメになるまで溜め込むわけじゃなく、期限一年から半年を目安に更新らしい。で、古い食材は格安で市井に放出される。そうして低所得の住人も餓え少なく暮らせるシステムになっていると。


「でも、そうした義務を馬鹿正直に守れる貴族も少ないんだよな?」

「王都は特にその傾向のようですね」


 地方貴族は自衛の必要が身近なせいか、案外守られてる義務だ。しかし永く平穏な王都近郊は随分と形骸化した感じらしい。

 更新の頻度が多いのはそれだけ出費がかかるのと同じだから、節約の意識で期間を延ばしたり更新そのものを無視したり。さすがに食えなくなった食料を無理矢理売り払おうとかした貴族は罰則対象らしいが……果たして、本当に罰せられてるのやら。


「そういえば、この国の内情って結構ヤバいんだよな。主に国民感情で」

「……さすがはウザイン様でございます」


 いや、別にメイド隊も知らない独自の諜報機関は抱えてないぞ。

 単なるゲーム設定の知識だ。

 というかそんな設定が背景にあるから、学院編が終われば戦争編みたいな感じになるんだし。

 ……内乱程度なら自分の領地に籠もってバックレも良いんだが……、余所の国が相手の場合はなぁ。

 まぁ、それ以前に俺個人の破滅の回避が優先なんだが。


 さて、露天に意識を戻そう。

 市場の店はその日限りの並びだが、扱う品で大まかな纏まりにはしてるらしい。食料関係が集まるとこを抜けると、今度は日用品の雑貨を扱う露店が多くなった。


「とりあえず目的(飴ちゃん関係)の確認は終わったようだから……どうするかな?」


 調査って意味ならば全然足りない情報量だが、ほんの数時間で済ませるならこんなもんだ。菓子なんて既存のアイテムで兄上と世間がどんな暴走をしたのか気になったが、露天で見かけたものは俺の案件の物とは似ても似つかぬ感じの物ばかり。これなら、この世界の食事事情に妙な影響は無いだろうと安心できた……気がするから、もう良いのだ。

 主に俺の精神的な部分で。

 むしろ情報を集めすぎて懸念が現実化してたら逆に不安だし。

 知らぬが仏、ってやつだ。


「そういえば、市井の武具類に、我が領の秘技が伝播しつつありな未確認情報もありますが?」

「……は?」

「信憑性は薄いのですが、地元に配備した兵士用の付与魔術付きの武具が不当に流出。その模倣品が市井の鍛冶士によって作られ、こうした売り捨て御免の露天に並ぶという噂にございます」

「ああ、いや。兵士の装備にそういった加工がされてたってとこから未見なんだがな、俺は」

「……それは申し訳ございません。領主様よりウザイン様への通達は済んでいるとの事でしたので……」

「ほ……、ほほう」


 あのバカ親父ぃぃぃぃぃっ。


 付与魔術ってのは、十中八九、神殿用の死亡回避のやつだろう。

 俺がいちいち付与する手間を省いて、魔法陣の刻印自体は凸印作って板金に打ち込めば可能な形にしておいた。溝が途切れずあるなら問題無い。凸印を打つ時に魔法陣用の塗料付きでやるなら、誰でも機能するようにはしといたのだ。


「機能する内容は神殿と関連付けられぬよう、別の効果のものをウザイン様に依頼したとの事でしたが?」

「……ああ、そういや、魔法陣の機能決める時に幾つかサンプルを試したな」


 うん、思い出した。

 蘇生の確実性のテストで何体か実験動物を使った際に、同時に幾つか関係性の薄いテスト版とかも作ったのだ。

 思い返せば、そのテストの許可とる流れで親父様のリクエストした魔法陣も試作した。

 関係無いと破棄したつもりだったんだがなぁ。

 そいつをサルベージされてたらしい。


 ……くぅっ、さすが悪徳商人。汚いっ。

 実の息子を平気で利用するか、汚いっ、さすがだ親父様。


「……機能するかしないか知らんけど、そういった事なら確認せんとなー。そんじゃ、防具回りを中心に調べるぞ。時間も惜しいし、手分けしてお前達も探せ」

「「はっ!」」


 のんびり散策気分が一気に霧散しやがりましたよ。

 ったく。


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