26 休日のおっさん気分で散策準備
中間試験に向けて予定が少し変わった。
といっても、その内容は些細なものだ。
単純に、座学の知識量が怪しいフラウシアに、メイド隊総出の詰め込み教育時間が増えたのだ。
この世界での現実面で言えば、試験内容は魔術の詠唱文句の暗記と歴史のおさらい。前半は問題無くとも、歴史を鑑みる生活と無縁な過去をもつフラウはどうしても憶え難いものだったらしい。
……なんか、珍しく鬼教師風になったメイドたちに囲まれてベソかきつつ学ぶフラウの情景が微笑ましい。
そして、さすがにこれは手伝いも庇いようもないので見守るしかできない俺だ。
というか、俺が居るとフラウの気が散ると、やんわり“どっか行け”な指摘をされたので退散した。
この機に再び魔法の練習を……といった試みは頓挫。
実家でやったように、広い敷地のすみっこで実演練習してみようかなぁと一発試した途端、何故か王都の衛兵隊の訪問騒ぎになったらしい。
おかしいな。
まぁ、小規模な雨雲が湧いて家の敷地の上だけ天気が変わるってのは確かに珍しいとは思うが。魔法のある世界じゃそう変なもんとも思わないのだがなぁ?
しかしそんなことなので、別の事をしなきゃになった。
ただし、新商品やアイデア関係は自重だ。
何度も何度もと迂闊だが、不思議と自分の中の常識で動くと“やらかし案件”が増産される。先日の〈飴ちゃん事変〉もそうだ。最初は別宅でも俺の私邸内のメイド隊ブームに落ち着いてたはずなのに、何時の間にか兄上の邸内にまで拡散していた。すると当然、その話題は兄上の知るところとなり、さらに兄上の知人友人へと拡散する。兄上のそれは、商売相手と同義だ。
……そんなわけで、今の王都は静かに飴ちゃんブームに侵食されつつあるのだとか。
この世界的に珍しくもないアイテムなのに何で? と問いたい。
フルーツ味のドロップなんて珍しく無いでしょう?
練り飴とかも普通だよね?
世の中の流行の切っ掛けには本当に驚かされたという、お話。
「パラパラみたいに無理矢理流行らせたわけでもねーんだがなぁ……」
あれは確か、由緒あるジュリアナぁんなディスコホールの新たな目玉にしようとか何とかで、テレビのバラエティや報道枠まで使って“こんなダンスを考えました”と大宣伝をかましたのだ。昼の生放送のバラエティ番組、、店の前の通りでレポーターからのインタビュー中。ホストみたいな格好の中年が実演してる様がシュールだった。
その後、店は何時の間にか閉店してたらしいしパラパラも流行った反応は無かった。
数年後かな、なんかアイドルの振り付けに見掛け始めて、自然と知名度が上がってたんだなぁと知ったのは。草の根活動してたんか知らんけど世間に定着したのかと思ったのは。
……妙な記憶が復活したもんだ。
思い出しても全く益がない。
まぁ、それが関係したとは言わないが、飴ちゃんハザードの世間様の直の反応が知りたくなったので市井の観察に出る事にした。
いわゆる、お忍び。
「さて、市井に紛れる格好となると……町人か?」
「お勧めはできません」
「そうなのか?」
今日の俺付き背後のメイド隊は二名。相変わらず個体名(?)の判別はできない。何処からともなく情報を仕入れてきたりするので確実に諜報関係の能力持ちなんだが、相変わらず俺にその詳細は社外秘らしい。
いいよ、もう諦めてるから。
が、まぁ、そんな存在からの訂正なので信頼度は高い……かな?
「王都は広い都市ですが、そこに住む町人の生活範囲は狭いのでございます。それこそ、一目見れば余所者かの判断ができるほどに」
「ああ、なるほど」
どうも俺の暮らしの意識で常識の勘違いが出てたらしい。
貴族としての意識だと、そもそも生活の範囲は家の敷地内で完結したりする。日常品含めてブツが欲しけりゃ訪問販売させるからね。出張店舗の規模で。
加えて、地球での方は電車や車で広範囲に人が移動する環境を普通と感じていた。見ず知らずの他人が隣を歩いてても気にしないってやつだ。
この世界の、歩いて行ける範囲だけが世界の全てという環境を知っててはいても自覚できなかったのが俺なんだろう。
「特殊な立場でない限り、町人は大通りで区切られた街区内の暮らしで一生を終えます。他の街区の者との接点は、大通りに置かれた商店や市場越しがせいぜいでしょう。それ故に異質な余所者と確定される姿での散策はお勧めしかねます」
「ふむ、となると?」
「異質と視られぬ余所者。巡回商人か冒険者を装うのが無難かと」
「わかった。ではそう見える衣装を頼む」
「承りました」
できたメイドだ。
しかも間髪入れずな感じで衣装一式を運んできた。部屋の外で控えてたんかいと突っ込みたいくらいのタイミングで。
……親父様、うちのメイド隊は本当に何なんですかね?
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