16 未知の聖女

 報告書の内容は中途半端というか、経過報告を含むものになっていた。

 判明した聖女は五人のうち二名。うち一人はライレーネなので、発見したのは実質一人という内容なのだ。


「これはどう判断したら良いもんかね」


 聖女の調査にメルビアス先輩の実家の力を期待したのは確かなんだが、調査対象が神殿関係なんで、やってみてそこまで大事の頼みで良いのかという疑問も出た。

 そして結果が、肩透かしのこれだ。

 これは、先輩が実家の伝手を使わず今使える自分の手駒だけ動かした結果なのか。もしくは正真正銘実家の調査力がこの程度なのか。


「……もしくは、駆け引きで情報を小出しって算段なのか……」


 得た内容には不満しかないのだが、自国の諜報仕事の程度だと逆にそんくらいの姑息さを期待したいというか。

 中々に複雑な心境である。


 ……ともかく、調査結果の確認をしてから判断するか。


 資料内容が一番多いのはライレーネの方。自分から身バレしてたし自慢タラタラ語ってもいたので、当然っちゃ当然か。俺が当人から聞いた以外の内容があればのつもりで先に見てみようか。



〈ライレーネ・ステンドラ〉

 ステンドラ男爵家・第五子。三女。

 コッパー王国、東域に小領地をもつ。資源産地に適さぬ土地だが、国内流通の要衝で様々な地方貴族の領地へ続く中継地として流通交易関連の税を収入源にしている。

 現王家と前王家の継承内紛の折には中立を表明していたが、実質的な活動は前王家寄りだったために、現在は勢力縮小対象となっている。

 特に近年、国家規模の主流交易を南方街道にという方針もあり、庶民の流通も減少傾向で年々税収も落ちている。


「……ふむ。なんか敵意の理由が知れた気がする」


 この内容からして、国の金の動きが東から南に変化しつつある。土地柄、流通関連の税収がステンドラ男爵家からうちの家の領地を含む地域に移ったとも言う。


「当事者にゃ見事な泥棒猫って構図かな」


 実家からも中央に南方域の街道整備しろや的な要求いれてるしなー。

 じゃないと神珠液の流通は無理でっせーと……まぁ、脅しいれてるしなー。

 これも時代の流れと、別段ステンドラ男爵家に気遣う必要性は感じないがな。


 さて続き。

 ライレーネ個人に関して。


 五子にして三女。貴族家の子として見れば、要らない子だ。

 よほど家庭円満な方針の家でもない限り、子沢山な貴族家の子など他家との血の繋がりを結ぶための道具に過ぎない。

 だが当人も言ったように、ライレーネの性能と価値は高すぎた。男爵家な家格の駒として見たら、下手に政略に使おうものなら不和しか生まんだろう。俺基準で見て、あの程度の魔術の才能でも貴族の世界じゃ人間兵器確定だ。だから周辺との確執を無くし家の名声に繋ぐにゃ神殿に入れるしかなかったのだろう。

 その神殿が麗光神だったのは、単純にステンドラ男爵家の領都で一番羽振りが良かったからのようだ。

 ……詳細は掘り下げないのが平和かな。個人的な意見としちゃ娘を高く売れる先だったとかは思いたくないな。流石に。


 彼女自身の成長方向は……詳細な数値の評価じゃないんで確証は無いが、フラウシアと似てる気がする。環境、装備と類似点が多いのだから似てて当然とも思うが……これが聖女の特徴なのだとしたら、他の候補探しにも少しは役立つだろうか。

 フラウとライレーネ。初対面の時の能力差が魔力総量値増加訓練の時期の違いで済む話なのかは疑問だが。


「あの性格のままフラウと同等まで性能が上がると思うと、正直頭痛の種だな」


 やはりこの世界の主役な聖女というべきか、フラウには俺とは決定的に違うユニーク適性を示しつつある。能力的には器用貧乏な俺が先行有利で稼いでる優位性で何時まで対抗できるのか、不安でしかないもんなぁ。

 敵対してる聖女の存在って恐怖。マジにキツい。


「破滅不回避のパターンでの対応策も考えよう。……聖女の威信も届かない地の果てに逃げるとかな」


 ちなみに、授業の範疇でライレーネとの再衝突は今のところ無い。というか向こうから避けられている。さすがに数日で実力逆転とまでは行かないようで、負け確定での衝突はライレーネも望んでいないからだろう。

 女子特有の学院内の印象操作的な工作もメイド隊を動かしての確認では起きてない。これは我がナリキンバーク家の評判が最低過ぎて、もう印象を下げようが無いせいかも知れんけど。


「ライレーネ関係の脅威はあいつ自身の成長待ちとして、現状は放置と。そんじゃ、次は未知の聖女の方だな」


 報告書を捲る。

 今度は事前情報の無い対象だ。


〈リースベル〉

 平民、孤児。

 戦神トラス神殿、巫女見習い。


 ……なんかプロフィールの時点で地雷臭が酷い。

 戦神。

 ……戦神、かぁ。

 なんか昔、絶対関わりたくないリストに挙げた気がするなぁ。



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