17 三人目
〈リースベル〉
平民、孤児。
戦神トラヴ神殿、巫女見習い。推定、聖女候補。
王国東方面辺境域で七年前に生じた国境戦役での戦災孤児。
現地の孤児院にて戦神巫女の資質を認められ、神兵訓練に参加していた。
各神殿で聖女候補を求める動きに選ばれ、学院へと送られたもよう。
……戦神の悪い話は過去に聞いたが、その詳細はよく知らない。
報告書にはその詳細も含まれてたので読んでみよう。
神兵――
その生涯を心身共に戦神の兵として悪と戦うと誓いを立てた者の呼称。
各人の才能に準じた戦いの行動のため、兵種としての区別は無い。
敵対者や他神殿の印象としては、死をも恐れぬ狂信者というもの。
……一応、公式の記録としては私利私欲で動く私兵集団じゃないらしい。
逆に言えば、大義名分次第で悪鬼同然の存在にも化けるらしいが。
なんにしても噂で聞いた戦神のダークサイドが洒落にならん。
巫女見習い――
他神殿の神官見習いと同意の立場。女性神官を指して使う。
まだ神兵の資格に至らない者達への呼称の一つ。戦神の女性信仰者の多くは、一時的に戦神の意志をその身に下ろす行為が多いため、古くから巫女の呼称が使われる。
聖女との能力的な違いは明言されていない。
……巫女っていうと、あれだよな。精神が逝っちゃ……じゃなくてトランス状態になって人が変わったような行動をするとか何とか。
うーん。
キレた女。客観的に見て、怖いよな。正に発狂って感じに暴れて、何するかの予想もつかない。暴力に満ちた未知の存在とか見るだけでトラウマ対象だよ。
これがキレた男とかになると途端に雑魚臭が強くなるのに。実に不思議。
というか、フラウを除く聖女候補の精神面、漏れなく破綻傾向に思えるのは錯覚ですか?
プライベートなら確実に近寄りたくない人種だろう。面倒だし不幸しか生まんし。
女性蔑視上等で言えば、対面するなら外面だけでも清楚な雰囲気の方が忌避感は無いと思うのだが? 童貞ならそんだけで一目惚れ対象だぞ。
ただまぁ、出自だけをいうならリースベルはフラウと近しいものがある。
共に戦乱という理不尽の犠牲者ってなとこは同情しかない。違いといえば、フラウの戦いの記憶は短く、リースベルは七年前から今も続いていて、既に人生の一部と化してるだろうなとこか。
巫女見習いに関する他の特色としては。
自身を中心にした周辺に居る神兵の身体機能を強化する支援効果。
同様に多少の外傷ならば瞬間的に治癒させる回復効果と。
これは、〈ローズマリーの聖女〉の聖女の特徴に似たものの記憶がある。
というか、物理系の戦闘じゃ支援が役目の聖女として正統系な能力ともいえる。
「学院編が終わってSLG風味が出てからの機能だけどなぁ」
正確には、学院時代の攻略対象で変化するゲームシステムの一つだ。
王子ならば王妃の立場で、摂政の息子なら内政官の立場で王宮に入り、いろいろガタが来ている国家運営の建て直しや発展がメインのシムゲーム風に。
軍事畑が相手の場合は、聖女を回復ユニット扱いの戦争SLG風になったりする。
全く別の内容にというよりは、比率が変わる程度の微妙に貧乏くさい変化だったが、俺は敵の強さや侵攻具合にランダム性があって飽き難いSLGへの選択肢をよくやっていた。
「攻略対象を将軍の息子か騎士見習いにするかだけでも、戦闘の難易度が変わって面白かったんだよな」
反面、シム風だと処理が大雑把でなあ。戦争勃発→対応A→勝利・リザルト確認。そんな感じで終わってしまう。そのくせ消費した国力への補填がおざなりだと次の敵国の侵攻が前倒しになったり内乱やゲリラ活動が起きたりする。
「それでいて、聖女の主人公視点だと“最近旦那様とご無沙汰だわ(健全)”な、仕事と家庭、どっちが大事なの展開という……」
うん、乙女ゲームだなーな感想しか出ないやつだった。
……まぁ、脱線。
リースベルの情報確認に戻ろう。
えーと……。
リースベルは神殿に入って、基礎訓練時代の二年ほどで巫女見習いの資質を開花させた。
どうも、戦闘訓練の一環である魔物の定期的な間引き戦闘がきっかけだったらしい。
以降劇的に実力を高め、戒律上立場は見習いのままだが、働きは……現役の神兵なみの戦闘力を発揮するように……なった?
……うん?
巫女見習い。聖女。
どちらも味方の支援的な能力に秀でた立場で、まぁ、聖女の主人公補正はあっても単身での戦闘力はそこまで……なはずだよな?
記録の確認を続けると。リースベルの最終戦果は三年前。東域で起きたゴブリンキングの大氾濫鎮圧となっていた。
概要だけ読むと、ゴブリンの統率個体が生まれて軍団化した魔物の集団を撃退したというもの。さすがにリースベル個人の戦果ではなく、一部隊の臨時指揮官として参加した結果らしい。
……指揮官?
11か12の少女が?
詳細情報がないかと探すと出てきた。
今回の報告書用じゃなく、当時の戦時記録の写しらしい。
当初は巫女見習いとして、部隊の支援要員として直接戦闘はしない後陣として参加していた。しかしゴブリン勢力の驚異度を見誤って初期投入の前線人員の大半が突貫後死亡。無防備化した後陣は、応援部隊が来る半日あまりを自力で生き延びなければならなくなった。
で、多少でも戦闘訓練を受けていたリースベルが臨時の指揮官扱いになったと。
……戦神関係者。正気か?
いやまぁ、連中基準だと正気なのかな。
記録にあるリースベルの指揮は専門に遠く及んじゃいないが、当人の支援能力もあって悉く成功。多大な戦死者は出してるが、結果的にそれ以上の被害をゴブリン側にも与え敗走させていた。到着した応援部隊は戦う気力を無くしたゴブリンをさらに恐慌状態にしただけらしい。
えーと、預かる部隊全員に支援魔術をかけ、部隊全体をバーサークにしての突貫進軍が得意?
……意味が解らない。
当時のリースベルがどのように対処してたかのインタビューらしいが、これも意味不明。
要するに敵集団の中に一発ミサイル撃ち込んで、ちょっとの間空白地帯を作りましたってのと変わらない。破裂したミサイルの原形が残らないのと同様に、突貫した部隊に生き残れる確率も無いのだ。
報告内容に“力尽きるまで”とか入ってる時点で狂っている。
……いやまぁ、聖女の常識外れな支援能力で無理矢理成立させたんだろうな、と想像はできるけど。
戦術なんて言葉は使ってるが、無茶な内容からリースベルには年相応の戦い方しかしてないなと安心できた。ただし聖女の資質は確実だなとも解った。
「少なくとも、リースベルが俺みたいに中の人付きの存在じゃなさそうで。そこだけは安心要素かな」
けっして、率先して会いたい人種とは言わんがな。
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