04 やっぱり不穏
妥協案。
俺の修学予定に、少し聖女要素を加味する形にした。
まぁ、回復や支援系の魔術の座学と実技を加えた感じだ。
神殿方面からの伝説って形での情報は知っているが、それが学術機関ではどういう解釈になってるのかの興味はあったので、無駄できない。たぶん。
魔術の座学全般には少し期待してるとこがある。
家庭教師が軒並み不良品だったからなぁ。技術としての魔術を一般的な環境でどう習うかが気になってたりしたのだ。
……バカでも解る理論なら、俺も通常の魔術の発現方法を覚えれるのかなぁ……的な。
で、初の講義を体験した感想としては……やっぱり解らん。
魔術の前段階で体内の魔素を練り上げ、魔力という形に纏める。
そのためには、魔素を知覚し動かせる感覚を覚える。
……その時点からダメなんだよなぁ。
相変わらずに、視界に浮かぶMPバーの増減でしか知覚できていない。
ただ、俺だけの魔法の仕様には少しだけ変化が生じている。
魔法と魔術の微妙な仕様の変化を比べてみて、魔法側の微調整がより効くようになった事だ。
この変化で初期から中規模の魔法は威力の増減に随分と自由度が増した。消費MPも調整できているようで、おかげで最低威力の魔法はMPバーに減った動きも見せずに連発が可能になっていた。
「なぁ、フラウ。講義の内容は理解できてるか?」
「……(コクン)」
「そっか。フラウは優秀だ」
「……?」
いや、三年前から共に学び始めたフラウシアが優秀なのは充分過ぎるほどに知っている。
結局、魔術全般は不動の魔術教師六人目の座を守り続けたエミリア侍祭に二人して習い続けたわけだが、彼女の教えを少しの苦労で実にしているフラウは確実に秀才タイプの人間だ。
王都に発つ寸前の最後の方じゃ、俺が魔法でやる変則的な発現方法すら魔術で再現してたしな。
広範囲対象の魔術ではなく、個人対象の魔術を並列起動し増幅効果を生む行使など、そう簡単にはできないと思ってたんだがなぁ。
主に詠唱が必要って意味で。
因みに、度を越した無口スタイルのフラウは、見事に魔術の無詠唱方式を体得してしまっていた。
当人曰く、心の中でちゃんと詠唱はしてるらしい。そして心の中だからこそ、並列や重奏の形で複数回の同時詠唱もできるのだとか。
……それは逆に、俺の方が理解できん。
流石は聖女候補。有能すぎるフラウシアである。
で。そんなこんなで座学で魔術の基本も習い終え、本格的に実技の授業もとなった学院生活。
とうとう、乙女ゲームでは避けられないだろうな、定番のイベントが起きてしまった。
フラウシアと、恋人候補との邂逅である。
場面は初の、魔術の実技。
貴族のプライドからか、大雑把に貴族と平民は教える教師も別な扱いで並行して行われていた。
そして貴族は、当然ながら高位貴族が何事にも最優先だ。
だからまぁ、フラウシアの相手候補の高位貴族との接点はまだ先のはずだったんだがなぁ。
「いや、本来の予定じゃ初日から次々に出遭う予定を意図的に回避させてたって感じなんだがな。……上手く行ってたと思ったのに」
立場の違いを最大限に利用したというか。
フラウシアが俺にべったりな行動なのを幸いに、敢えて危険を避ける行動をしてたら結果上手く行っていただけの話である。
そして今回も、授業の順番的に回避できると踏んだんだが……何処かで何かの修正力でも働いたのだろうか?
「ふむ、この授業に聖女候補が混じってるって話だったんだが、誰がそうなんだろう?」
「さぁて、一応はうちの部下からの情報なんだが、個人の特定までは無理だったんだ」
うわぁ……しかも直球だよ。
というか、聖女の情報自体が漏れてるってどうして?
現われた恋人候補は先輩枠から二人。
一人は現王の側近である近衛軍団長の子息にして、学園風紀隊の二院生部隊を率いるブレイクン・アーレス。茶の短髪の運動部系イケメン。裏表の無い正義感に突っ走る脳筋設定だ。
もう一人は、やはり現王側近中の側近。摂政の子息メルビアス・ロゼッテンス。学院では〈青き血の塔〉と称す魔術研究会の会長もやっている。名前からも解るだろうが、極端な貴族選民主義の集まりだ。
当人の性格は真面目な事務方って印象なんだが、彼の容姿が緑髪を肩まで伸ばした上に前髪で右の片眼を隠すような“いかにも”造形。絶対コイツ、ナルシストと断言できる御面相だった。
本来ならば二人ともフラウシアが聖女とは知らずに、自分の率いる活動への勧誘という形で出遭う。その後にフラウシアが聖女という可能性を秘めているのを知り、より興味を抱く展開だった。
そのはずだったんだがなぁ。
その展開を丸々潰した反動だろうか、なんか予想ではない感じで接触してきたようだ。
「さて、どうするか……。あ、とりあえずフラウ。面倒な人物がいるようなんで、俺の影に隠れてるように」
ブレイクンもメルビアスも学院内では有名人のようで、この実技授業に参加する新入生連中全体が浮ついた感情に支配されていた。
フラウがその変化に怯えるのは当然の反応なので、前もって注意しとくに越した事はないだろう。俺の言葉に何度も肯き、素直に俺の背後に回り、連中の視界から逃れようと縮こまるフラウだ。俺は作品設定どおりに規格外の背高ヒョロ男に育ったからな、フラウの衝立代わりには充分だ。
とはいえ、さて、どうやって連中の聖女捜しを空振りに終わらすか。
その手段を考えるも答えは出るのかと悩むしかない、俺だった。
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