05 聖女登場

 答えの出そうにない悩みに答えが出ないうちに、応えが出た。


「あーらっ、これは意外な御方たちの登場でございますわね!」


 甲高い御嬢様口調での一声。俺ばかりか全員の関心を引き、注目させた誰か。

 周囲の者達がザッと引き、まるで舞台のスポットライトを浴びた主役みたいに目立つ女子生徒の姿が露わになる。


「……なんだ、ありゃ?」


 女子生徒なのは確かだろう。辛うじて制服の面影を残す衣装を着ているし。

 確かこの学院の制服は、ある程度の改造は認められている。デカかったり小さかったり、痩せていたり太っていたりと、個々の体格で着丈の調整は必要だろうし、制服の全体像を失わないならば、個人の出費で着やすくしろというものだ。

 もちろん建前な規約で、ブライド高い貴族様たちは自分の個性を引き立てる独自すぎるアレンジを盛る傾向になる。


 大体な方向としては、高位貴族は地味めなアレンジで、ただし材質に関しては超のつく高品質品。王族とかは魔道具化させているって話もある。

 逆にケバケバしいのは下位貴族。妙な縁取り刺繍で原色配置の迷彩服かってくらいに目に痛いものも、実によく観る。

 特に女子制服は……なぁ。

 眼前のやつは、その筆頭といっても良いんじゃないか?

 生地の端々には必ずレース仕様のフリル。体型にはピッタリ寸法のアレンジで当人の容姿の良さは演出できてるが、関節の余裕も無い感じなのでそれらの部分だけ布地の余りが目立ち、まるでジャバラ関節の人形みたいになっていた。

 思わず『飛べっ、ジャイ○ント○ボ!』とか突っ込みたくなるくらいに。


 もし髪型が御嬢様定番の“ドリル”……もとい巻きロールだったら耐えられなかったろう。なんて危険なやつなんだか。


 実際の髪型は制服ほど奇抜じゃない、両サイドを後頭部のバレッタで留めた緩いウェーブのストレート。ただ光沢薄い亜麻色ならそれが一番似合って見える数少ない彼女の美点だろう。


 因みに、俺とフラウシアの制服は外見的な変更は余り加えていない。完全に無改造だと平民と同列に観られる蔑みネタの提供になるから、ボタンなどの一部に宝石の入った成金デザインを施してあるだけだ。

 もちろん、既に付与魔法の一端を知った俺独自の改造は加えてある。

 こちとら、学院生活が始まった以上は何時破滅フラグが立ってもおかしくない雑魚貴族なのだ。警戒の意識の及ばない状況でも身を守れる手段はとっとかないと。


「うん?」


 ブレイクンとメルビアスの両先輩にも変人丸出しの女生徒には気づいたようで視線を向ける。

 するとさも当然といった流れで、その女子が名乗りをあげた。


「ブレイクン・アーレス様、メルビアス・ロゼッテンス様。わたくし、この度〈麗光神れいこうしんカレス〉神殿より未来の聖女を任じられました、ライレーネ・ステンドラと申します。

 この度は聖女の、いえ私の噂をお耳にしてのお越しの様子。ならばとご挨拶申し上げますわ」

「お、…おう」


 テンション高めの圧しが強そうな女子生徒改め、ライレーネ・ステンドラ。

 その勢いに呑まれ気味の先輩方。

 その他の生徒たちは、ただ場の空気に圧倒されてるだけの様子だ。

 で、その中で俺とフラウシアだけは、別の意味で物凄く驚いていた。


「せ……聖女、だと?」


 ついつい、何処かでテンプレと呼ばれそうな返し言葉が出てしまう。

 しかも皆圧倒されて無言気味なせいか、その言葉は当の本人にも届いてしまったらしい。


「あら?」


 ライレーネと視線が絡む。

 向こうは“何処の雑魚貴族?”とでも思う表情でこちらを観察してたが、それがふと、何かを探し当てたようなものに変わった。


「そのバカにヒョロ長い痩せ男。そして後には背後霊みたいな貧相女……、推測するに、貴方、成金子爵のナリキンバーク家子息、ウザインとかいうやつね!」

「な……っ、何故それを!」


 と言うか、例えの表現の悪意が凄い。あと異様な解説密度が怖い。

 なにその、“ワタクシ、昔からお前のことを知ってます”的なやつ。


「豊穣神様を利用して富と名声と得たクズ貴族。その悪評を知らぬとは言わせませんわ。しかも無知で年端もいかぬ童女を聖女にすると騙くらかした悪辣な手口。信仰の道は違えど、六大神殿に連なる者は余さず神敵と印された魔の眷属でしょうにっ!

 いまさら、何をしらばっくれておりますの!」

「な……っ、なんだってぇぇぇっ!」


 ……と。

 妙な弾劾文句を連ねるライレーネ・ステンドラと言われた当人の俺だけが、ちょっとハイテンションな感じになったが……。

 周りは完全にポカーンな状況である。


 俺もそこに気づいて、ちょっとの間を置いて無性に気恥ずかしくなった。


「……(ぎゅっ)」

 フラウ語訳:「大丈夫、私は味方」


 止めてくれ! もっと心が痛いから!!


 俺からさらに数秒して周りの様子を認めたらしいライレーネは、何故周囲が自分に賛同しないのか本気で不思議がってる雰囲気だ。

 ここで我関せずを示す周りを勢いよく非難するのが……何となく彼女のキャラな気もするんだが、ぎゃくに周りの沈黙に感化され態度が大人しくなっていく様は……まだ彼女が芯から変なわけじゃない証拠なのかな?


 で、気づけば先輩方の注目は、自然とライレーネから俺へと移っていたわけで。


 ……あれ、なんなんだ、この展開?

 せっかくのスルー戦術が見事に瓦解している、この状況。


 あれぇ。

 ……あっれぇ?



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