03 順調だった初日…たぶん
平和な流れで入学式がスタート。
結構物々しい案内振りだったが、会場に入ってみればその人数の少なさが意外だった。
総数としてみると……300か400人程か。新入生の比率としては平民が三割。下位貴族が六割。残り一割が王族関係も含む高位貴族といったところ。
座る位置が完全に区分けされたんで非常に見分けやすい。
まるで隠しルートの攻略対象かと思うくらいに若く美男子な、ホスト臭醸す学院長の挨拶から始まり、美老人の魔術学部長、筋肉ガテン系の武術学部長と続く。最後に、これは完全に攻略対象の一人である生徒会長の挨拶と激励をもって式は終わる。
その後は、各自身分に合った別の会場に移り受講スケジュールを組む事になる。
「この学院は個人単位修得式でな。無駄にクラス分けして妙な派閥を生む土壌を廃している」
ゲームでは聖女の行動予定を組むモードだな。
実際には各自渡されたスケジュール申請書を手に、掲示板に貼られた科目と時間を書き写していく。
画面上の時間割をコマンド選択で埋めて行くのがこういった解釈になってるのだろう。……たぶん。
因み、敢えて言葉にしてるのはフラウシアへの説明も兼ねている。
前もって説明は受けてるはずなんだが、こうも周囲に“下位貴族オーラ”を振りまかれていると平静ではいられないのだろう。俺の腕に縋ってる小動物と化してるので、少しでも安心させるため要らん話を振っている。
「というか、下位貴族ってのはこうも鬼気迫るもんなのかなぁ」
これもこの世界が現実故なのか。
それとも、こういった物語世界の定番とでも言うのか。
学院は学びの場というよりも、将来の貴族同士の交流の起点として扱われるのが“フレーバー”な設定として存在した。
先祖や親の世代から続く縁故を維持する努力。自分独自の新たな繋がりを結ぶ努力をする。それは地球の文化でも大事なもんなので、大いに共感できる部分はあるのだが……。
流石に、全周囲敵視気味の視線には辟易とする。
「うちって、素で敵が多いからなぁ」
ある意味、フラウはとばっちりの視線に怯えてるな感じだろう。
ナリキンバーク家の歴史は浅い。
とは言っても親父様の半生を注ぎ込んだ歴史はあるわけで、うち以降に興った貴族の家だって無いでもない。
やっぱり、富があるって部分が妬みのネタなんだろうなぁ。
大概の貴族は財政的に困りがちという話だし。
領地持ちの貴族家は何処かしらに不穏を抱えて赤字がち。役職のみの法服貴族は老後の年金が充実してるお役所関係みたいなもんで、現役は安月給らしいし。
金回りの良い商家との繋がりが深い形で裕福な貴族は多いが、実家そのものが裕福なパターンは意外や少ないのが実情らしい。
というか……なんだろう?
俺への敵視の他にも、幾つかはフラウに向けられてる気もするが?
おかしいな。
フラウシアが聖女候補って情報は可能な限り伏せたから、学院関係者には知られていないはずなんだが。
まぁ、露骨に俺の関係者な態度だから悪意をってパターンなのかもか。
回りの態度はともかく、単位スケジュールは全員が組み立てなければいけない。
無視して進めているうちに視線の圧も段々と減っていった。
それを敏感に感じ取ったフラウも正気に返って予定を決める。
「……」
フラウ語で“書き終わった”の合図が来たので確認。
直ぐさまデコピンを一発。
「あのな、俺のスケジュール丸写しはさすがに無いぞ」
「……むぅ」
気持ちは解らんでもないが、フラウは聖女のための能力向上を求めて学院に来たのだ。修学予定まで俺とベッタリじゃ学院に来た意味が……
「……」
「……うっ」
「…………」
「……いや、フラウはフラウで学ぶ……事が……な……」
初めて感じるフラウの圧、というか強い意思。
こんな程度で発揮されるのもなんか哀しいが。
「……!」
「解った。慣れない今学期中は許す。が、次の学期からは自分なりに予定を決めるように」
「……っ、うん!」
はい、負けた。
やっぱり、ウザインって存在は聖女に負ける
……なに綺麗に話を纏めてんだか、俺。
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