02 お貴族様の身支度
入学式当日。
始業は地球の感覚で言えば10時頃。
中々の重役出勤かと突っ込みたくなるが、身支度に五月蠅いお貴族様事情を鑑みるとこんなもんらしい。
それは入学式のスケジュールも変わらない。むしろ飾り立てる熱意では今日の方がより時間を使うらしい。
成金で田舎貴族のうちには余り関係無い話だが。
いや、男子学生は普通に制服着てりゃいい気分だったから。
だから令嬢の方には意識が向いてなかったというか……はい。すっかり失念していた。
身支度、と言うか着飾る意味で女子学生の気合いは凄い。
明日以降は制服着用が義務になるから、私服で行事に参加可能な今日だけは余計に燃えているらしい。
そんな慣習知らんて。
「で、うちも今更着飾れるのか?」
「?」
当日になってから何だが、うちにも晴れ着を着せる対象がいるのに気づかされて聞いた。
というか至極当然な感じにメイド隊が準備してたのを聞いて、ようやく知った。
そういう女子特有の必要項目には……俺は朴念仁だな。
「そちら関係の準備は万端整っておりますよ」
「そうか、じゃあ頼む」
「「「承りました」」」
「ふにゃっ!?」
俺とメイドたちの意味不明の会話の後に、両腕を拘束されて問答無用で連行されるフラウシア。
今日は朝からフラウの生声が聞けた。朝から驚かされたが、たぶん良い日になると感じた。
……錯覚だったがな。
この世界を物語として知る知識では学院は全寮制と記憶していた。
が、その記憶が間違いだったか勘違いだったかはっきりしないが、現実では希望入寮制といった形だった。
学院のある王都に実家がある者、または独自に別邸を用意できなかった者。それらが寮暮らしをする設備だったわけだ。
そして聖女と恋人候補は何故か全員寮住まい。
この設定の根拠の類いの記憶はさっぱり無い。
「これも記憶の齟齬なのか、もしくは変に改変してんのか? 謎は解けんなぁ」
「……?」
「いや、単なる独り言だ」
因みに、聖女候補のフラウシアは当然、うちで面倒を見ている。
保護者は神殿なので寮暮らしの予定もあったんだが、金銭面ではうちがカバーする流れにしといたので、ついでに同じ別邸暮らしだ。
一応、聖女という最重要人物を目の届く場所に置きたかった意識もある。
もっとも、当のフラウが俺と二人分かれて暮らす選択肢を告げた時点で泡吹くくらいパニクったので、その場の全員“ダメだこりゃ”な判断に落ち着いたというオチ。
ただ、俺の思惑は抜きにしても結果としては良かったとも思う。
同居予定となって以降フラウシアは領主の館で貴族の作法が仕込まれた。それで見た目は貴族の子女にもなったし、なによりメイド隊とも親交が深まった。
難民の意識のまま学院暮らしになったとしたら、それはそれで非常にヤバい事になったろうってのは、フラウが立派な貴族っぽさを披露しはじめて思い至った部分である。
で、さてと。
何処の舞踏会で踊る予定なんだと問いたくなるドレスに着飾られたフラウシアが登場し、ようやっと登校だ。
わざわざ格下貴族の意匠に収めた送迎専用の馬車に乗り移動。学院の敷地の数%を閉めるバカ広い駐車エリアの一角に馬車を停め、そこからは徒歩で移動。流石に朝の混み合う時間に一人一人正面ゲートに停車という手間は省かれるらしい。
もっとも、高位貴族はその限りじゃないが。
「まぁ、むしろ面倒な連中と出会う機会が減るから良いな」
フラウシアの恋人候補は大概が国の中枢の血統だ。恋愛ゲームのヒロインなので当然だろう。正式な対面は同じ学科なりの出会いイベント以降だが、こういった時点ですれ違う懸念は山程あるのだ。
「消えない選民思想もこういった場合は便利だな」
建前上、社会の立場の差は無い学院内だが、入学式の時点からその差別主義がものを言っている。
貴族と平民、貴族内でも高位と下位で、会場に入場する配置が違う。
ちゃんとガイド役が先導するので無用な出会いのトラブルも無い。
……うちのは場合、成金中堅貴族という微妙な立ち位置なために、それでも敵対バカ貴族との遭遇の懸念はあるんだがなぁ……。
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