03 上京の途 (3)
フラウシアへの確認は、随分とあっさり済んだ。
なんかな、俺が想像してたより難民という集団はワイルドだったよ。
難民という一つの大きな集団意識は無い。
むしろ難民の括りの中で、すでに弱肉強食の階級付けが成立してる感じか。
……これ、隣の国の情操教育の結果、とかじゃないよな。
とにかくいい話は聞かない国だけど。
ただまぁ、フラウシアの意識としては、自分の母集団は既に俺のとこに組み込まれた仲間認定。しかし、肉体労働に適さない当人はその集団から弾かれた役立たず。
どうやら自死すら考えたくらいに、要らない子な認識だったらしい。
そうした同類たちが全員魔力適性を示したのは幸運なのか、ご都合なのか。
こんな自惚れた言い方をして良いのか悩むが、神官職になった直ぐ後に俺の下について仕事をできるようになった状況は、正に絶望後に届いた天の救いの光だったらしい。
非常に、照れる。
こればかりは〈フラウ語〉を通して聞けて良かったな。普通の言葉でメイドにも理解できる状況で言われたらキュン死する。
主人公補正の入ったフラウシアは、どんな舞台でもセンターを張れる美少女だ。この二年で痩せ気味の栄養失調児は見事に化けた。
女性らしさ全開に。
トド体型の紳士共なら迷わず五体投地して崇めるだろう。『てぇてぇ信仰』な感じで。
実際に遭遇したら、フラウが怯えるのが目に視えるから絶対に近寄らせないがな。
……まぁ、なんだ。
そんな覚悟があるというなら、取り敢えずは心配しないでいいか。
実際に知人と会ったらまた反応が変わるかもしれんが、そんな可能性まで気にしてたらなんもできん。
さて、話題にしてたからか、どうやら野盗の登場だ。
左手の森林部の浅い位置に隠れている。大きく二手に分かれているから、うちの一行を前後で挟み撃ちにするつもりだろうか。
その二手より数は少ないが、右手側にも潜伏している一団はいる。戦いが始まったらこっちの横っ腹から攻めれる配置だな。
想定するに……、前後は陽動。真ん中のやつらが最短距離で一行の中心に居る俺の馬車を確保。俺を人質に色々と要求って流れだろうか。
「戦力的にプロと難民崩れの野盗じゃ比べるのもバカだしな。連中にしてみりゃ、それが唯一の正攻法なんだろう」
「っ! ウザイン様。襲撃ですか?」
「!」
「ああ、前方600mあたりの地点で潜伏してるな」
この一行において、俺が常時、周囲を探知しているのは通達済みだ。
専門の斥候はそれとは別にしっかりと仕事をしているが、敵の待ち伏せなどゲーム的な探知マップに引っかかる状況では俺の方が性能は高い。
「俺が言ったポイントで森側から前後共30人ほどで塞ぎ、戦力が分散した頃合いで街道右側から伏兵16人が登場。中央にあるこの馬車へ襲撃って流れだろう」
「警護隊長に伝えます」
「うむ。俺の予想が正解とも限らん。そこはプロの判断を優先しろと言ってくれ」
「承りました!」
潜伏、待ち伏せなどは魔物でもやつ奴は居るが、人里に近い位置でそうした統率した行動を取る魔物は居ないという。
ならば、対象は人間。野盗の類いで決まりだろう。
もしくは、隣国の特殊部隊か。
「……このくらいの作戦が、この世界でどの程度のレベルを指すのかも知らんしなぁ、俺」
「山間部に暮らす者達には、群れの動物の追い込み罠などで似たようなものはございます」
「……うん!」
ハキハキしたメイドの答えに、聞き取れる限界まで小さな音量でのフランの同意。
よし、久方ぶりにフランの生声を聞いた。今日は良い日だ。
……と。
答えの中味からすると、まぁ、そう珍しくもないと。
じゃあ、そこまで警戒しないでもいいだろうな。
そうこうしているうちに、連絡を受けた警備隊長が馬車の横に来ての打ち合わせだ。
一行の移動速度は気持ち遅くした程度なので時間の余裕は無い。
「坊ちゃん、待ち伏せとの事ですが?」
「前後を挿む形で潜伏、こちらが止まったら右の横っ腹から襲撃。そう予想できる配置で居るな。ああ、被害は出ないと思うぞ。先制で封滅もできるし専守防衛も出来る」
「はい、御館様からはあまねく処理しろと言われてます。ですが、野盗の類いならアジトの位置も知りたいので……」
「そうか、じゃあ今は殺さず全員確保だな。ノンキル戦闘かぁ、じゃあ“アレ”をやる。歩みが止められたら各自、前もって目と耳を防護しておくように。敵の巻き添えになったら減点報告が父上に行くぞ」
「りょっ、了解です。速やかに全員へ通達します!」
俺と警護隊長の話を聞いていたメイドは既に準備を始めていた。
何処にでもある綿製の耳栓と、これは特別に用意しないと存在すらしない、サングラスだ。
どちらも頻繁に使うかもと小型携帯化しやすく作った。
普段着の人員はその形で、警護連中は兜の機構として組み込んでいる。切り替えは手動。
そして潜伏場所に到着。
前方から道を塞ぐ連中が出てきて、その後に後方にも似たような一団が登場。
如何にもガラの悪い汚い言葉の言い回しで自分たちを野盗宣言する。
……向こうは向こうで段取りがあるんだろうが、先頭の物騒な装甲馬車を目の当たりにしてよく臆さないもんだ。
そのあたりに少し感心する。
と、さて魔法使うか。
今回は魔法。
不意打ちで使うなら魔法陣演出の無い方が良い。
口上が終わってこっちの反応待ちとでも思ったのか、右手に剣呑な反応。
襲撃班的には相手の虚を狙った感じなのだろう。
だが残念ながら、そこで魔法発動だ。
〈光属性〉→〈攻撃系魔法〉→〈
あ~んど。
〈風属性〉→〈状態異常魔法〉→〈
説明……いるかな?
視神経が楽々焼ける超発光と、個人差はあるが鼓膜パーンの大音響。
どちらも生物の感覚に過剰な刺激を与え、麻痺状態に落とすものだ。
一応、嗅覚と味覚、触覚用のもあるぞ。
嗅覚は本能的な嗚咽が伴う超悪臭。
味覚は頭痛を伴う超絶の甘味。歯の神経全部に激痛を感じるやつもいるらしい。
触覚は一時的に無感覚化だ。何に触れようが何も感じない。地味に行動不能になるぞ。正座後の痺れた足で歩こうとしても床を踏む感触すら無いだろう。アレだ。
どんなにガタイのいいやつでも、無触覚にした途端フルフル震えてカクンとへたり込む生まれたての子鹿が如しだ。
笑えるぞ。
それに比べれば……、目と耳が壊れ、脳の痛みでのたうち回れる解りやすい遣られ方は幸せだと思う。
うん、割と。
魔法の効果終了とともに事前防御しなかった奴は全員、ヨダレやら他の体液を垂れ流して地面に倒れている。
そう、ダメージを受けて負けました、の解りやすい姿だ。
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