21 邂逅、盲点

 エミリア侍祭が連れてきた少女。

 彼女の事は当然、知っている。

 この一年、ちょくちょく面倒見てきたからな。〈神珠液〉への付与魔術の人材として神官職に抜擢された、元難民の少女たちの一人なのだし。


「人員はフラウシア、なのか。」

「はいウザイン様。神殿と当人たちの話し合いの結果でございます」


 フラウシアは俺と同い年の少女で、人材の中では年齢的に真ん中の子だったと思う。


「てっきり、最年長組の誰かが来ると思ってたな」

「上の三人はモーリスの母か姉代わりになってまして……」

「ああ、理解した」


 モーリス。最年少のチミッ子だ。

 あの子も五歳になったはずだが、なんでも難民時代に両親が亡くなってから身内への依存性が病的になっていたのだ。

 最年長の三人のうちの一人が実姉。そして他の二人を親と認識してるらしい。

 引き離すと露骨に幼児退行して泣き叫ぶ。


「一緒に置く分には無邪気なままなんだがな」

「そうですね。実は時々、ウザイン様を父親と勘違いしてる節もあります」

「……それは、勘弁してほしい」


 まぁ、それは俺が多少反省してる部分だ。


 彼女達には魔力増加の訓練を施す過程で、随分と……本当なら要らん手間もかけた。

 同年代なので友人にという部分は意図的に避けて……その反動か、どうもこう、ペットを愛でる感じに世話を焼いてしまったというか。


 タクティクス系のソシャゲで美少女型の戦闘ユニットを強化するのと同じだ。

 育成プレイに感情移入するとかの弊害だな。


 けして、俺の中の紳士の精神が開花したわけではない。


 ただまぁ、彼女達(正確には少年二人も含む)には、神殿では使わない他の魔術も覚えられるなら教える方針で接していた。

 実のところ、それは俺の実験の成分も含んでいる。

 俺は彼女達が、魔術ではなく魔法を使えるようになるかの確認がしたかったのだ。


 ……まぁ、結果は芳しくなかったが。


「そういえば、フラウシアは魔術全般への適性が高かったのか」

「はい、それもあっての今回の選抜です」


 魔術を覚える適性には個性がある。

 俺みたいにコマンド形式で全て憶えるとかは例外中の例外だ。


 ただ、元々神官への適性を見出されて集まった子たちなので、他の才能を発揮したのは一部のみとなる。

 上の三人は、ダメだった。純粋に神官向けだな。

 少年二人は男の子らしく肉体強化系の適性を見せて、その同年の女子は何故か探知系への適性を持った。

 そして、フラウシアと最年少のモーリスは、今のところ全属性への適性を発現している。

 まぁ、全属性とは言っても全ての魔術をとは行かないのだが。


「多彩な才能は確かに貴重か。……ん? と言う事は全属性の適性はそれだけで重要人物、なのか?」

「至極当然でございます、ウザイン様」


 後から“何をいまさら”という口調でメイドが同意する。

 いや、ほら。俺自身がこうだから。

 魔法関連の実物で、本格的に他人と比較し始めたのって、ここ一年の事だから。


「フラウシアとモーリスは、豊穣神由来の特殊神聖魔術、いわゆる奇蹟術の素養も開花しています。そのうえで魔術全般への適性も高いならと、御領主様の好意で学院行きも許されまして――」


 メイドの言葉に続くようなエミリアの説明。

 ふむ、つまり。

 どうせ王都に行く機会があるなら、自領の人材の才能を伸ばす事は全部やろうって算段か。

 うん、親父なら当然するな。

 まずは俺とのタイミングも合うフラウシアを。精神的に不安定なモーリスは、身体の成長で心の成長もあればというとこか。


「――あまり期待をかけるのもフラウシア達の負担になるかと心配ではありますが、この素質の現われは神殿の伝説に謳われる聖女の誕生に重なりまして、恥を忍んで御領主様に甘えさせてもらいたいと、当神殿長からの言葉をお伝え致します」

「ああ、そういう事なら俺からは何も言う事は……え、“聖女”?」


 聖女。

 聖女と言えば、アレだ。アレだよな。

〈ローズマリーの聖女〉のタイトルにもあるように、アレだ。

 主人公、だよ。


 フラウシアを改めて、視る。

 金髪と呼ぶにはやや色素の薄い、プラチナブロンドとの中間色の髪。

 瞳や肌の質感は白人なのだが、顔の作り自体はポリネシア系のような丸みを帯びた容貌。


 何と言うか、こういって良いのか知らんけど、アニメ顔がそのまま立体化したような印象が非常に強い。


 そしてそういった意識で彼女を観察すればだ。

 確かに、俺の中に“それ”を連想できる要素がある。

〈ローズマリーの聖女〉の主人公。

 そのキャラエディットでパーツ配置を総ざらいすりゃ、確かにこういった面相になる事もあるよな的な、既視感がそりゃもう。


 俺の突然の凝視に驚いたのか、なんか顔を真っ赤に染めて挙動不審になるフラウシア。

 いやスマン。でも今は大事だ。諦めてくれ。

 俺の一生での一大事だ。

 ここで確証を得たいのだ。


 とは言え、流石に奇態が過ぎたのか、室内の女性陣全員に窘めるような視線を貰い、結局は断念するしか無かったが。


 ……それにしても、このタイミングで出てきたか。



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