第63話 悲劇を止める為に(5)

 拓馬達の自転車を挟んでひげ面達のスクーターも止まる。


「お願いです、ここを通してください。人の命が掛かっているんです」


 拓馬は近付いてくるひげ面に頭を下げて頼む。


「だからお前一人で行けば良いって言ってんだろ。俺達は彼女と楽しく遊んでいるから」


 ひげ面は優位に立った余裕からニヤニヤと笑っている。


「分かりました、私は残ります」


 明菜はそう言って自転車から降りた。


「明菜さん!」

「大丈夫、拓馬君は早く行って和也君を助けて」


 心配掛けまいと明菜は懸命に笑顔を作るが、顔は青ざめ少し震えている。


「でも……」

「お願い、行って」


 拓馬の前を塞いでいた奴らが左右に分かれて通り道を作る。


――行くしかないのか……。


 拓馬は自転車のペダルに足を掛けた。


「霧島君フラれちゃったね。彼女は俺達に任せて行って来なよ」


 ひげ面は勝ち誇ったようにそう言うと明菜に近付く。


「さあ、みんなで俺んち来て宅飲みしようぜ」


 ひげ面の手が自分の肩に伸びて来て、明菜が堪らず目を閉じた瞬間、ガシャンと大きな音がした。

 何が起こったのか分からず、明菜は目を開ける。ひげ面の手が明菜の目の前で止まっていた。拓馬が自転車を放り出して、寸前のところでひげ面の腕を掴んだのだ。


「拓馬君!」

「霧島ぁ……」


 歓喜の声を上げる明菜と対照的に、ひげ面は怒りに震えている。

 拓馬は空いている右手でひげ面のシャツを掴むと左腕は掴んだまま大外刈りを掛ける。薄手のシャツが破れ、ひげ面は路上に転がった。


「汚い手で明菜さんに触るな!」


 拓馬が倒れているひげ面にそう怒鳴ると、今度は近付いてきたグラサンがいきなり殴りかかって来た。

 拓馬は柔道の組み手争いの要領でグラサンの腕を外側に弾き、足払いするように前に出ていた足のすねを蹴った。

 グラサンは「あ、いっ」と声を出して、すねを抱えてしゃがみ込む。


「お前何やったか分かってるんだろうな? この人数相手に勝てると思ってるのか」


 駆け寄ってきた仲間に助けられてひげ面が立ち上がる。

 ひげ面の仲間たちが、拓馬達を取り囲んでいる輪を少しずつ狭めて近付いてくる

 これだけの人数相手に勝てる見込みも無かったし、和也を助けに行く時間も無くなる。拓馬は絶望的な気持ちになった。


「俺が奴らを引き止めるから、明菜さんは自転車で交差点に向かって」


 拓馬が小声で背中の明菜に指示する。


「でも拓馬君が……」


 明菜が拓馬を心配して躊躇する間に、二人は完全に取り囲まれてしまう。

 もう逃げる事も難しくなったその時、「ちょっと待てよ」と奴らの後ろから声が掛かる。

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