第11話 彼女が俺を知らない世界(3)
「えっ、明菜、この人を知らないの?」
女生徒が驚いた顔で明菜を見る。
「いや違う、知り合いだけど、照れているんだよ。大丈夫、何も問題ないから、連れて来てくれてありがとう。二人で話がしたいから、もう君は行ってくれて良いよ」
拓馬は女子生徒の肩を掴んで後ろを向かせ、校門の方向に背中を押した。
「何勝手な事を言ってるの、私も帰るよ」
拓馬の態度に怒って、明菜も帰ろうとする。
「高橋和也が好きなんだろ? 彼の命が危ないんだ。協力して欲しい」
拓馬は帰ろうとする明菜の腕を掴み耳元で囁いた。
「なっ、どうしてそれを……」
明菜は明らかに動揺している。
「あの娘に聞かれたくないだろ。頼む、怪しい者じゃないんだ。和也を助けたいだけなんだ」
拓馬はもう一度、明菜の耳元で呟いた。
「あー古沢ちゃん、ごめん。私は大丈夫だから、二人で話をさせてくれないかな」
「えーなによー、あとでちゃんと説明しなさいよ」
拓馬の言葉が気になったのか、明菜は女生徒に帰るように促す。古沢ちゃんと呼ばれた女生徒は不満そうな顔をしていたが、去って行った。
「俺は明菜の未来を知っているんだ。ここは目立つから、駅前のMバーガーに来てくれ。詳しく話すから」
拓馬は「古沢ちゃん」が離れたのを確認してから、明菜にそう言った。
「あなたは何者なの?」
「頼む、信じてくれ。悪いようにはしないから」
拓馬は他の生徒の目を気にした。ちらほらと立ち止まって様子を窺う生徒もいたので、場所を変えたいと考えたのだ。
「わかった。帰る準備をしてから行くわ」
一旦明菜と別れ、拓馬は自転車で駅前のMバーガーに向かった。
Mバーガーは大手のチェーン店で、駅前の店は一、二階合わせて五十ほどの客席がある。着いてすぐに拓馬はコーヒー2つとポテトを買い、入口から目立つ椅子に座った。
正直、来る可能性は五分五分だと思っていた。警戒されて当然なので、明菜の和也に対する想いに期待するしか無かった。
拓馬の心配をよそに、明菜は十分後に現れた。店に入ってすぐに拓馬の姿を見つけ、近付いてくる。
「さあ、どう言う訳か話してちょうだい」
「来てくれてありがとう。二階に行こう」
拓馬は落ち着いて話が出来るように二階に上がり、明菜も彼に続いた。
拓馬は周りに人がいない席を選んで座り、明菜にコーヒーを差し出す。
「どうして宿工の人が、私や和也君の事をしっているの?」
明菜は席に座りもせず、少し怒った様子で拓馬に訊ねる。
「明菜は虫が嫌いだったよな」
「えっ?」
「小さい頃にカブトムシと間違えてゴキブリを素手で掴んだからだろ?」
「どうしてそれを……」
「ピーマンが苦手なのは心配しなくて良いよ。二十歳の時に、高級中華レストランのチンジャオロースを食べたら凄く美味しくて、むしろそれからは好物になったって言っていたから」
拓馬は明菜の反応に構わず話し続ける。
「二十歳って……一体あなたは何者なの?」
「俺の名前は霧島拓馬。七年後の未来から来たんだ」
「七年後の未来って……冗談は止めてよ!」
明菜が大きな声を出したので、近くに居た客が何事かと注目する。
「ごめん。ちゃんと説明するから、席に着いてくれないか」
拓馬は明菜を落ち着かせるようにゆっくりと話す。明菜は拓馬が何か危害を加えるつもりはないようなので、とりあえず向いの席に座った。
「いきなり訳の分からない話をして悪かった。どうしても明菜に信じて貰わないといけないから……。俺は七年後の未来では佐々木彩の恋人なんだ」
「彩の恋人?」
「明菜は七年後もずっと彩の親友で、俺とも共通の友人になっているんだ」
「私とあなたが友人? ちょ、ちょっと待って、あなたが彩の恋人って、和也君はどうしたの? 彩と和也君は別れたの?」
明菜は何から確認すべきか混乱していたが、拓馬の言葉を頭から否定はしなかった。最初に明菜の個人情報を知っていた事が効果的だったのだ。
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