第2話 視線と囁き
いつの間にか、彼を目で追うようになった。
ーまぁ、狙わないんだったら俺から狙いますけど
最初は凄く驚いた。だって今まで奥さんがいたような人が同僚…しかも同性で遥かに年上の自分を狙うだなんて訳が分からなかったから。でも、正直なところ信じられないとは思わなかったのも事実で。だって今は多様性が叫ばれている世の中である。それは恋愛に対してもそうだ。男性が男性を好きになるわけないと断定は出来ないし、それを否定するのも間違っている。
(それは分かってるんだけどさ…)
でもそれが自分の身に起きたら別の話だ。自分は元々女性が好きだし。偏見こそないが流石に疑問は生じえない。
(佐藤さんが…僕を)
視界の端に映る同僚は至って普段通りで。伸ばしっぱなしのふわふわな髪の毛は後ろで縛られていて、おおよそ30代には見えない若々しい横顔が見える。それにキーボードの上で忙しなく動く両手に見える男性特有のごつさは学生時代に「男の癖に白い」と馬鹿にされてきた僕には凄く憧れで。思わず目を奪われてしまう。
ー金村さん
今は閉ざされている赤い唇で。普段のはしゃいでいる時とは違う低く甘い声で。名前を呼ばれてしまったら、世の女性達はもう彼の虜なんだろう。
「なんで僕なんだろうなぁ」
「かーねむーらさん?」
「うわ!?」
ぼーっとしていたらいつの間にか目の前に同僚が現れていた。咄嗟に逃げようとはしたが驚きすぎてしまって体が固まる。
「もしかして…俺に見蕩れてました?」
「なっ!」
ガッツリと図星を突かれてさらに狼狽える。するとその姿を見て面白かったのか、耳元にすっとその赤い唇を寄せて追い打ちをかけるように囁いた。
「恥ずかしがり屋な金村さんが素直になれるように俺がちゃんと…落としてあげますからね」
まだまだ、僕が同僚に振り回される日々は続いてしまいそうです。
(暗転)
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