第5話 偽りの兄妹
「怜華ちゃん、お願い!合コンに参加して欲しいの」
職場の先輩から合コンに誘われた。
「えっ?…合コン…ですか…?」
「あなたの事情は知っているんだけど一人だけ頭数足りなくて…」
「いや…でも…私は…」
だけど参加せざるを得なくて行く事にしたんだけど ――――
そして、そこで事件は起きた。
化粧室に行き合コンの席に戻って来た時の事だった。
「………………」
男女問わずのみんなの視線が痛い。
「あの……」
「怜華ちゃんだよね?」
「…はい…」
「…?…」
一斉に合コンの同じ席に参加中だった男性陣から囲まれた。
「あの……」
私の両肩や、腕やら、左から右へと左右に何度も引っ張られ肩を抱き寄せられたりと、私は何が起きているのか訳が分からず恐怖から半泣き状態になってしまう。
「す、すみません……」
「離して…離して下さい…」
「お願い…辞めて…下さい…」
「何?何?」
「どうしたの?」
「怜華ちゃん、何、泣いてるの?」
楽しいはずの場の空気が一気に悪くなってしまった。
みんなからの視線が刺さるように痛い。
「………………」
「大丈夫?怜華ちゃん」
先輩が傍に来る。
私は先輩に抱きついた。
自分で抑えたくても体の震えが止まらない。
「先輩……すみません……私……」
「怜華ちゃん。私こそごめんね。無理言って。みんな彼女は先に帰らせるわ」
「ええっ!」
「何?どういう事?」
「そんな美人な子を帰しちゃうの?」
「この状態で帰らせるのってあり得ないんだけど?」
「申し訳ないけど……彼女をこのまま置いて置けないわ」
「何だよそれ!」
「意味、分かんねーんだけど!」
「彼女は、過去に事情があって男の人が苦手なの。今回は無理を言って参加させてもらったの。本当、ごめんなさい……」
「………………」
「マジかよ…」
「だったら最初から……いや…いいわ!だったら俺も帰ろうかな?」
「じゃあ俺も…」
男女問わず次々に帰って行く参加者。
結局、嫌な空気のまま、合コンはお開きになった。
私は申し訳なさにみんなに謝る事も出来ず私のせいでめちゃくちゃにしてしまった。
「ごめんなさい……先輩……先輩の立場悪くしてしまって……」
「私は良いから。私こそ無理に言って本当にごめんなさい」
私は帰る事にし、店を後に出る。
先輩は、タクシーをひろって私を乗せた。
「一人で大丈夫?」
「…はい…」
「嫌な思いさせてごめんね。また月曜日に」
「私こそすみません……空気悪くしてみんなに不快な思いさせてしまって……みなさんには謝れないまま……先輩は大丈夫ですか?」
「私の事は大丈夫。心配いらないから。それじゃ」
私達は、別れた。
マンションの建物の前に着き、タクシーを降りる。
マンションの出入り口に向かうと
「あれ?怜華?」
声をかけられ視線の先には裕斗の姿。
「……裕斗……」
「どうかした?かなりヘコんでない?それより今日は眼鏡はしてないんだ」
「えっ!?眼鏡!?あっ!どうしよう……店だ……」
「店?」
私は先輩に連絡しようとした矢先、
「怜華ちゃん!」
背後から私の名前を呼ぶ声。
「……男?あー、そういう事……」
「違う……合コンで……」
「ふーん……別に良いけど。関係ないし」
ズキン
私の胸の奥が痛む。
裕斗は去って行く。
「裕斗っ!」
「怜華ちゃん、眼鏡忘れてたから。先輩に聞いたら帰ったって聞いて、すぐに後を追ったんだけど間に合わなかったみたいで」
「そう…だったんですね…。わざわざすみません。ありがとうございます。あっ、さっきはすみません……空気悪くしてしまって……皆さんには謝る事出来なくて大変申し訳なくて……」
「大丈夫だよ。ところで申し訳ないけど、トイレ貸してくれるかな?」
「えっ?あ、トイレ……はい」
男の人をあげるのは正直避けたかった。
だけど、わざわざ眼鏡を持って来てもらったのもあり、仕方なくあげる事にした。
部屋に案内し、トイレを貸す。
「ごめん。ありがとう」
「いいえ」
「それより、それだけ美人なのに勿体ないなぁ~」
「えっ?」
「眼鏡掛けてるなんて。彼氏いないの?」
「はい」
「じゃあ、俺、立候補しようかな?」
「えっ?」
グイッと腕を掴まれ、引き寄せられた。
ビクッ
肩が強張る。
そして、肩を抱き寄せられた。
「あ、あの……すみません……離し……」
キスをされ押さえ付けられた。
「や、辞め……」
「合コンの場の空気悪くしたんだし」
「………………」
そう言うと再びキスをされ、抵抗する私の洋服が乱れる。
「先輩に頭上がらないよね~」
「………………」
ピンポーン
私の部屋のインターホンがなる。
ビクッ
「怜華いるー?」
ドキン
≪裕斗?≫
「あれ?独り暮らしなんだよね?」
「ごめん、怜華。今日、お兄ちゃん出張で、こっちに来たんだけど、飲んじゃってさ泊めて欲しいんだ」
「お兄さん?」
「そう…みたたいですね」
「連絡したんだけど連絡つかなくて」
「じゃあ、俺、帰るよ。トイレありがとう」
「いいえ…」
男の人は帰って行った。
「怜華…大丈…」
「………………」
「お前……その格好…」
抱きしめられた。
ビクッ
「大丈夫。何もしないから。何かされたのか!?」
私は首を左右に振る。
私は震える中、裕斗を抱きしめ返す。
「こんなに震えてんのに何もないわけ……」
「……大丈…夫…。…平…気…だから…」
抱きしめ合った体を離し、裕斗は私の両頬を優しく包み込むように触れる。
「…怜華…」
「ごめん……今日は……色々ありすぎて……」
「取り合えず今日は一緒にいようか?一応、お兄ちゃんの設定だし」
私は頷き、裕斗を部屋に入れ、今日の事情を話した。
「そうだったのか…」
「先輩にも悪い事したなって……それに……参加していた人達にも…」
「怜華…だけど、それを知ってさっきみたいな事あったって事は弱味につけ込んだ汚いやり方して、ろくな奴等じゃないと思うけど」
「えっ?」
「先輩はともかく…他のメンバーはどうだろうな…って正直、俺は思うけど。どういうメンバーをどう揃えたかは知らないけど、中には良い奴いるかもしれないけど…今回は運が悪かったとしか…」
「裕斗……」
「とにかく、ゆっくり休みな。傍にいるから」
「うん……」
裕斗は、私の頭を優しく撫でるようにして落ち着かせるようにすると、私はいつの間にか眠っていた。
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