第3話 間一髪、恐怖の瞬間

それから数か月が過ぎ、私達は隣人同士という事が分かり、お互い呼び捨てしあうようになる中、裕斗からの出入りが多くなっていた。




ある日の朝。




「ん……」



目を覚ますと、私の隣で寝ている後ろ姿の人影に気付く。



「えっ!?きゃああっ!」

「ん……うわあぁぁっ!」



ドサッ


床に転げ落ちる人影。



「ってーーっ!」


「ゆ、裕斗ぉぉっ!?な、何してんの!?」

「…悪い!昨日、酔っ払ってたからー」

「酔っ払って…?って…合コン?」

「そう」

「……結局…相変わらず参加してんだ…盛り上げ役として。キスとかしてきたんだ……」

「キスとかって…それ…H含まれてる感じになるから、その発言はおかしいよ。怜華」




バサッ

布団を投げつけるように被せる。



「うわっ!急に何?」

「ここは私の部屋!洋服来て!」



裕斗は、パンツ1枚の格好。

私は目のやり場がなく布団を被せたのだ。




「なぁ、怜華…出掛けない?」

「えっ?」

「暇でしょう?それとも先約ある感じ?」

「これといってないけど」


「じゃあ決定!!後で呼びに来る。一先ず、嘉山 裕斗、シャワー浴びてきまーす♪」



「………………」






そして ――――




「怜華ちゃーん、準備出来た?」

「うん」




私は部屋を出る。



スッと眼鏡を外された。



トクン

胸の奥が小さくノックした。



「裕斗?」

「眼鏡はいらない」

「えっ?」


「見えない訳じゃない事は私知ってるし。俺と二人きりだから怖い事はないと思うけど。それでも眼鏡掛けとく?」




ドキン……


瞳の奥から見つめる優しい眼差しの裕斗に私の胸が小さくトキメく中、ざわついた。




「裕斗……」

「ん?何?」

「裕斗は、どうしてそんなに優しいの?」

「えっ?」

「……どうしてだろう?私……裕斗に対しては疑問に思う事ばかりで……」


「疑問?」


「……私……男の人って苦手というか……怖いイメージしかないから……でも裕斗は初めて会った時から何か違っていたから……」


「怜華、それは多分、俺が初めて会った時に怜華の異変に気付いていたからだと思う」


「えっ?」


「俺が酔っ払ってキスしようとした時、怜華がビビってる感じが分かったから」



「………………」



「この子まだ若いのに何かあったんだろうなぁ~って…それに眼鏡の下は美人だから容姿を隠す必要あるんじゃないかって…」



「…………」



「……そうか……」

「さっ!出掛けよう」

「うん」


私達は移動する。



「後……」

「うん、何?」

「合コンの時、眼鏡を拾うように頼んだ後……バレないようにしてくれた?」

「あー、独り占めしたかったから」

「えっ?」


「という理由もあるけど、眼鏡で小細工していたんだろうから隠す方が良いと思って」



≪やっぱりそうだったんだ……気のせいじゃなかったんだ≫



「裕斗は凄いね」

「えっ?」


「私の事……そんな風に大人の対応をスマートにやってくれて私の胸の中にスッと入ってくる。本当、裕斗は不思議な男の人」


「怜華」


私達は、とにかく出掛けた。




ある日の夜。


私は仕事から帰宅しベットに横になり疲れてそのまま眠っている時、事件は起きた。



体に重みを感じ目を覚ました。



「…ん?」



ビクッ


私の目の前に飛び込んだ人影があった。




「きゃ…」



口を手で塞がれた。



「んー、んー…」


「静かにしな!」




ビクッ


体が強張る。



過去のレイプ未遂事件がフラッシュバックし恐怖で動けないでいた。



「玄関のドアが少し開いていたからさぁ~」



「……………」



スーツのボタンが外されていく。



「相手してもらおうかなぁ~?」



上半身が露になる私。



≪や、やだ……怖い……誰か……≫



怖くて逃げられない私はされるがまま、スカートの中に大きい手が伸びゆっくりと手が入っていく。



ピンポーン


部屋のインターホンが鳴り響いた。


ビクッと驚く中、相手が一瞬怯んだ。



「怜華ー、いるー?」



≪裕斗!?≫



私は抵抗し何とか玄関に向かう。



「裕斗ーーっ!助け……きゃあっ!」



ドサッ


もう少しの所で腕を掴まれバランスを崩し床に転倒し、再び押え付けられた。




「や、いやあっ!離してっ!辞め……」



ドンドンドン……



「怜華っ!おいっ!怜華っ!」



抵抗する私の足が偶然にも股間に当り私は鍵を開ける事が出来た。



「怜華っ!」

「裕斗っ!」



その隙に犯人は逃げ出す。



「不法侵入者だーーっ!捕まえろーーっ!」



裕斗は、同じ階の住人に聞こえるように大声で叫ぶ。



パサッ

私に洋服を羽織らせる。




「中に入ってな!」



頷くのが精一杯だった。


そんな中、一斉に同じ階の住人のドアが開いた様子で、階の廊下が騒々しい。


少ししたら静かになり、遠くからパトカーのサイレン音が聞こえてくる。



「………………」



パトカーはマンションの前に止まり、しばらくして、マンションから離れ遠くなっていくのが分かった。



「怜華?」



私はドアをゆっくり開け、ドアの隙間から顔をのぞかせる。



「大丈夫?」



私は裕斗だと確認し、震える手をゆっくり伸ばす。


裕斗は私の部屋に入り抱きしめる。



ビクッ

体が強張る。



「大丈夫…何もしないから…」

「…ゆ…う…と……っ…た……怖…かっ…た……」




私は幼い子供のように泣き、涙が次から次へと溢れてきた。


ぎゅうっと更に抱きしめる裕斗。



「怜華…傍にいてあげるから」




次の日。



私は昨夜、小さな子供ように恐怖心と泣き疲れて裕斗に傍に見守れながらいつの間にか眠っていた。


目を覚ます私の目の前で布団に顔を伏せて寝ている人影。



「……裕斗…?まさか…ずっと…傍に…?」


「……ん…」



目を覚ます裕斗。




「………………」



「おはよう怜華。大丈夫?」



私の両頬を優しく包み込むように触れる。



ビクッ



「お、おはよう……うん…」

「…まだ…ビビってんな」

「…ごめん…」

「謝らなくて良いから。怜華が異性に対して苦手なのは知ってるつもりだから」



私は裕斗の両手に重ねるように触れると、裕斗に抱きつくと裕斗も抱きしめ返した。



「裕斗…ずっと傍にいてくれたんだね……」

「あれだけ怯えて泣いている姿を見たら帰れないから」

「……裕斗…ありがとう……ごめんね…」



抱きしめ合った体を離すと、スッと私の片頬に触れる裕斗。



トクン


胸の奥が小さくノックする。



「裕…」



裕斗はキスをした。



ドキン

私の胸が大きく跳ねる。



「元気になる魔法。またな!」




私の頭をポンとすると裕斗は私の部屋を後に出て行き始める。




「…裕…斗…」

「何?」


「………………」



私の両頬を優しく包み込むように触れ、優しい眼差しで見つめる裕斗。



ドキン


胸が大きく跳ねる。



私の心(ハート)がざわつくような、私の胸の奥に異変が起き始めていた。



「大丈夫。犯人は捕まったから」

「……うん……」

「…怜華…鍵だけは、きちんと掛けときな。また後で来る。傍にいてあげるから」



私は頷いた。





















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