第2話 隣人さん
そしてある日の事。
「あ゛ぁぁ〰〰〰っ!…疲れた〰〰〰っ!残業も楽じゃないっ! はあぁぁ~~……」
仕事から帰り、大きい溜め息混じりと愚痴をこぼしつつ、マンションの建物前に帰りつく。
すると、マンションの建物の出入り口前に人影がある事に気付く私。
カチッ
煙草に火を付ける人影。
「………………」
≪男の人?≫
私は一瞬、足を止めた。
そして、ゆっくりとビクビクしながら出入り口に向かう私。
振り向く男の人。
「あれ?」
ビクッ
「君は……確か……」
「…えっ…?……あっ……あーーっ!」
そこには以前、合コンで私のファーストキスを奪った彼・裕斗君の姿があった。
「な、な、何で?? どうして??」
「どうして?って…俺、ここのマンションの住人だし」
「…嘘…!?」
「本当。凄い奇遇だね」
「………………」
「どうして、ここで煙草吸ってんの?自分の部屋で吸えば……」
「部屋が汚れるから」
「えっ!?じゃあベランダとか?部屋の前とか?」
「それも嫌!洗濯物汚れるし部屋がバレるから」
「えっ!?そんな理由?」
「俺なりの拘りと色々な事情や理由があるから」
「そう…なんだ……」
「それより普段も眼鏡かけてるんだ。合コンの場だけじゃないんだな?どうして?すっげー勿体なくね?」
「良いの!これで!理由あって眼鏡かけてるんだから!」
「理由?そうなんだ」
「そう。それじゃ」
私達は別れた。
次の日、弥冬に裕斗君の事を話した。
「へぇー、同じマンションだったんだ!」
「うん……」
「この際、ゲットしたら?」
「えっ!?」
「彼の人気高かったし、すぐにお持ち帰りされちゃってるよ。確か男友達と帰っていた気がする」
「……そうなんだ……」
「彼も何か話せない理由とか、話したくない理由あるんじゃないかな?怜華みたいに。部屋、教えたがらなかったし。案外二人、良い関係になれるんじゃない?」
≪確かに部屋バレるの嫌って…≫
「キスした仲だし、ファーストキスを奪われたんだから。この際、全部奪われちゃえ!」
「えっ!? 弥、弥冬っ!」
クスクス笑う弥冬。
「でも、怜華には後悔しない人生を歩んで欲しいから。心から絶対に幸せになって欲しいって思う」
「…弥冬…」
「傷付く怜華なんて見たくないよ!」
「……ありがとう……弥冬……」
再びある日の事だった。
「裕ちゃん、ここに住んでるんだ!」
「えっ!? い、いつの間にぃっ!?」
会話が聞こえる方に目を向ける。
「ついて来ちゃった♪」
「えっ!?それは困るから帰って!」
「やぁ~だぁ~。だってぇ~キスしたからぁ~、その続きしよう♪」
「………………」
≪裕斗君……また……キスしちゃったんだ……≫
「いや、続きはしないから!」
「どうしてぇ~?成り行きのHもありでしょう?お酒入ってるしぃ~、絶対、Hもしたくなるでしょう?」
「成り行きぃっ!?いや……その考えが良く分かんねーんだけど……俺は、その気ないから帰って!」
「やぁ~だぁ~。私ぃ~、帰らないよぉ~」
彼女は癖のある女の子のようだ。
可愛く見せて甘えるように言う女の子。
私には真似出来ないし、今まで会った事も見た事もない為、尚更、見入ってしまう。
すると裕斗君が私に気付き目が合う私達。
「……嫌な……予感……」
私は背を向ける。
「あっ!裕ちゃんっ!何処行くのぉ~?」
「頼む!」
「えっ!?や、やだよ!」
私の許可をもらわないまま、裕斗君は私の腕を掴み彼女の元に連れて行く。
肩を抱き寄せる裕斗。
ビクッと体が強張る中、胸の奥からドキドキと早鐘を打つように加速する。
怖いような怖くないような……私の心臓は正直爆ついていた。
「俺の彼女。今日、友達の付き合いで仕方なく付き合ったんだ。悪い!! 君、可愛いし、もっと良い人現れるって。そういう事で帰ってもらえるかな?本当、ゴメンな!」
申し訳なさそうに言う裕斗君。
私の耳に入ってくる裕斗君の優しい声のトーンが、くすぐったいけど、心地良い。
抱き寄せている裕斗君の体温が伝わる中、むしろ安心していくような感じになり私の心もゆっくりと平常心になっていく気がした。
「私は認めたくない!」と、彼女は言った。
「認めたくないって言われても……」
「彼女いても良いから!」
≪そこまで言う?≫
≪ていうか……そんな気持ちになる本心が良く分からないんだけど……≫
私は内心思いつつも、相手の女の子は更に言葉を続ける。
「第一、彼女は別に可愛い訳じゃないじゃん!私の方が断然可愛いよ!」
「………………」
≪凄い自信のある子≫
私はらちがあかないと思い意を決して眼鏡を外す事にした。
まさか、こんな形で同性に、ましてや恋人でもない彼・裕斗君の為に、何故、嘘の芝居をしないといけないのだろう?
彼女は私の姿を見て数歩下がり、悔しいような負けたと思わせる表情を見せる。
まるで落胆するかのような表情も伺えた。
「私の彼、困っているから辞めてもらえるかな?」
「………………」
「あなたは、裕斗が言うように可愛いし、まだ出会いは沢山あるはずよ。私、彼・裕斗に何回もアピールされて裕斗の想いに負けちゃって……」
「………………」
「彼、カッコイイから合コンに参加しちゃうと、あなたに限らず、必ずみんな裕斗の事気に入っちゃって彼女の私も正直困っているんだ。だけど、裕斗を信じているから。友達の付き合いも大事だから参加させてるんだ」
「………………」
「私……今まで過去に色々あって……正直…彼以外は考えられないの。だから…あなたに彼は譲れないかな?本当にごめんなさい」
彼女は仕方なく帰って行った。
「………………」
≪ちょっとやり過ぎたかな?≫
≪申し訳なかったかな?≫
私は抱き寄せられた肩の裕斗の手を叩く。
「いてっ!」
私は去り始める。
「あっ!待って!怜華ちゃん!」
「年下の私を巻き込まないで!」
「ごめん…だけど助かった!サンキュー」
トクン…
私に微笑む裕斗君に、私の胸の奥が小さくノックした。
「べ、別に!ていうか酔ってキスする癖、直した方が良いんじゃないの?」
「ていうか…合コンに参加するの辞めた方が良いのかもなぁ~…俺……」
「だったらそうしたら?今日は偶々、仕方なくしてあげたけど2度目はないから!」
「うん、気を付ける」
「気を付けるって…参加する予定なんだ!」
「だって俺、盛り上げ役だし」
「盛り上げ役?」
「そう!彼女いるわけでもないし、場が盛り上がるならと思うけど…でも、怜華ちゃんと出会ったのは何かの縁のような気がする!だけど、美人って凄いなぁ~感心した。美人って得だね?」
「凄くないし、得じゃないから!そういう目で見るのは辞めて!」
「だけど、過去に色々あったって所は本当の意味も込められてる感じでしょう?」
ギクッ
ズバリ当てられた。
そして気付けば自分の部屋の前に来ていた。
そんな裕斗君も隣にいる。
「ていうか…何処までついて来てるの?」
「いや……別についてきてる訳じゃないから」
「えっ?」
「俺も疑問に思う中、移動していたけど……」
「……何?」
「いや……俺達、お隣同士だったんだなぁ~って」
「ええっ!?」
確かに隣同士並んでいる私達。
「奇遇の出来事、第2弾!」
「………………」
「改めまして、隣人の嘉山 裕斗君でーす!宜しく!隣人の村瀬 怜華ちゃん!」
トクン…
裕斗君の笑顔に、また、胸の奥が小さくノックした。
「お隣同士、仲良くしましょう!後、俺の部屋絶対バラさないでね? それじゃ」
部屋に入って行く裕斗君。
私は部屋に入って姿が見えなくなった裕斗君の部屋を見つめる。
「隣人って……嘘でしょう?」
まさかの偶然?
私達は本当に隣人同士なんだと
気付いた瞬間だった
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