第8章 9 両親との別れ
ヒルダが退院する日―
ハリスとマーガレット、カミラにノワールの姿が病室にあった。
「ヒルダ…本当に『カウベリー』には帰らないのか…?」
ハリスがヒルダに問いかけた。
「ええ。申し訳ございません、お父様。私の変え帰るべき場所は…あのアパートメントなのです」
「しかし…」
尚も言い淀むハリスにマーガレットは言った。
「あなた、大概にして下さいな。ヒルダが決めたことなのですから、もうこれ以上口出しするのはおやめ下さい」
「お前の方からそのような台詞が出て来るなんて驚きだな?」
ハリスが驚いた顔でマーガレットを見る。
「ええ、ヒルダはもう…小さな子供ではありません。大人なのですから」
「お母様…」
「奥様、旦那様。ヒルダ様の事なら私がおりますので御安心下さい」
しかし、ヒルダはカミラの言葉に首を振った。
「カミラ…もう私のことなら大丈夫よ。私…知ってるのよ。アレン先生から結婚を申し込まれているのでしょう?」
「「「「えっ?!」」」」
ヒルダの言葉にその場にいた全員が驚いた。
「カミラ…その話、本当なのか?」
ノワールが尋ねた。
「え…そ、それは…」
カミラが困惑した表情を浮かべる。
「カミラ、正直に話して頂戴」
マーガレットに言われ、カミラは観念したかのように話し始めた。
「は、はい…その通りです。実は昨年…クリスマスの日に…アレン先生にプロポーズされました…」
頬を染めながらカミラは言う。
「そうだったのか…」
ハリスは唸るように言う。
「カミラは私が心配でアレン先生のプロポーズのお返事が出来なかったのよね?でも私のことなら大丈夫。どうかプロポーズのお返事をして?」
ヒルダの言葉に思わずカミラの目に涙が浮かぶ。
「ですが…ヒルダ様は…エドガー様と…」
その言葉に思わずノワールは目を伏せる。
「いいのよ、私は…もう大丈夫だから。カミラにはどうか幸せになってもらいたいのよ」
「はい…有難うございます…ヒルダ様…」
カミラはヒルダの手をしっかりと握りしめた―。
****
「それじゃ、ヒルダ。元気でな?」
「ヒルダ、離れていても私達は親子に変わりないのだから…何かあったら手紙を書いて頂戴ね」
駅の前で馬車を降りたハリスとマーガレットが別れを告げる。
「お父様、お母様。本当に改札までお見送りしなくて宜しいのですか?」
ヒルダが馬車の中で尋ねる。
「ああ、大丈夫だよ。ヒルダは退院したばかりなのだからあまり動かないほうがいい」
「そうよ。ヒルダ。ここまででお見送りはいいのよ」
そしてハリスはカミラに言った。
「カミラ…それでは結婚するまでは…どうかヒルダを頼む…」
「はい、お任せ下さい。旦那様」
そして次にハリスはノワールを見た。
「ノワール…」
「はい」
「君には色々と言いたいことがあるが…」
そこで言葉を一度切り、言った。
「ヒルダを…宜しく頼む」
「え…?」
その言葉にノワールは一瞬躊躇うも、返事をした。
「はい。分かりました」
(ノワール様…)
ハリスとノワールが話をしている姿をヒルダは見つめていた。
そして…。
ハリスとマーガレットはカウベリーへと帰って行った―。
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