第5章 18 隠しきれない気持ち

「お兄様…ですが、私は『カウベリー』で…領民の人たちから嫌われているんです。それなのに長く滞在することは…」


ヒルダはうつむきながら返事を渋った。


「駄目…か?」


エドガーはじっとヒルダの目を見つめている。その瞳は切なげに揺れていた。


「それなら2日だけなら…」


ヒルダは消え入りそうな声で言う。本当は今すぐにでも汽車に乗ってロータスへ戻りたかったが、エドガーの気持ちを無下にする事は出来なかった。


「本当か?本当に滞在してくれるのか?」


たった2日期限を延ばしただけなのに、エドガーは嬉しそうに言う。


「はい」


ヒルダはエドガーを見つめ、笑みを浮かべた。


「ありがとう、ヒルダ…」


エドガーは頬を染めてヒルダを見る。もうエドガーはヒルダに対する好意を隠すことは無くなっていた。けれど、ヒルダにはエドガーの気持ちに応える事は出来なかった。


(お兄様の事は…尊敬しているし、好きだけど…だけど私は…)


ヒルダはまだルドルフの事を忘れられなかった。そしてエドガーのことは家族としての情愛しか持てずにいた。


(それにお兄様は結婚されているわ…)


そこでヒルダはエドガーの妻であるエレノアの事を尋ねてみた。


「お兄様、あの…エレノア様はどうされたのでしょうか」


すると途端にエドガーの顔色が変わる。


「あ…彼女はまだ実家から戻ってきていないんだ…」


そしてヒルダをじっと見つめるとエドガーは言った。


「ヒルダ、俺は酷い人間だ。正直、今はエレノアが実家に帰っている事に安堵している自分がいる。出来れば…いっそこのまま二度とフィールズ家に戻って来ないで欲しいと願っている自分がいるんだ…」


エドガーは苦しげに顔を歪めた。


「お兄様…っ!」


ヒルダはその言葉に驚いた。


(もしかしたらお兄様は本当にエレノア様と別れたいと思っているのかしら…けれどそんな事をすれば…)


ヒルダはノワールの言葉を思い出していた。


『今エレノアはエドガーと別居を始め、離婚をほのめかし…フィールズ家に莫大な慰謝料を請求しているらしい。それが嫌ならエレノアの要求を飲むように言われているようだが、エドガーはそれを拒否している…』


「お兄様…お父様は何と仰っているのですか?」


「父は…何とかトナー家に考え直すように説得しているところなんだ。なにしろあの家からはかなりの資金援助をしてもらっているから…だが、俺は…」


エドガーは苦しげに言うと、正面に座っているヒルダをじっと見つめた。エドガーの目の前にいるヒルダは…いつにもまして美しかった。まるでこの世の物ではないかの如く…。


(ヒルダ…俺はお前を愛している。どうすればお前も俺と同じ気持ちを持ってくれるんだ…?)


エドガーは最早自分の気持ちを押し殺すことが出来なくなっていたのだった―。

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