第5章 19 屋敷に到着

「お兄様は…今も離れで一人で暮らしているのですか?」


「あ、ああ…ただ父が出張で不在の時だけは本宅にいるけどな…母は…俺のことを許してくれているから…」


エドガーは悲しげに言った。


「申し訳ございません」


ヒルダは頭を下げた。


「え…?何故ヒルダが謝るんだ?」


エドガーは首を傾げてヒルダを見た。


「お父様がお兄様にしている仕打ちについてです…本来であれば私が誰かと政略結婚をするべきだったのに…こんな足になってしまったせいでそのあてはなくなり、代わりに私はルドルフと…」


(だけど、結局ルドルフは死んでしまった…私がお兄様の、そしてルドルフの運命を歪めてしまったのかも知れないわ…)


「ヒルダ、やめてくれ。ヒルダは何一つ悪い事はしていない。全ては俺の責任なんだ。俺が…いつまでも未練がましく…」


そこでエドガーは言葉を切り、ヒルダを見つめた。


「お兄様…」


ヒルダは何と言葉を掛ければよいか分からず、口をとざしてしまった。


(どうやらまた俺は気まずい事を口走ってしまったようだ…)


エドガーは自分の発した言葉に酷く後悔した。その時、走り続けていた馬車が止まった。フィールズ家に到着したのだ。


「エドガー様、ヒルダ様、到着しました」


御者台から降りたスコットが馬車のドアを開けた。


「ありがとう、スコットさん」


ヒルダが礼を言う。


「ヒルダ、手を…」


エドガーが言いかけた時、ヒルダが首を振った。


「いいえ、お兄様。他の人たちの目があるかもしれないので、スコットさんに手を貸して頂きましす。…いいですよね?」


ヒルダはスコットを見た。


「ええ、勿論です。ヒルダ様」


スコットは手を差し伸べた。ヒルダはスコットの手につかまると馬車を降りた。その後ろをエドガーが続く。


「どうもありがとう」


ヒルダはスコットに礼を述べた。


「いいえ、ヒルダ様。では僕は馬車をしまってきますので、これで失礼します」


スコットは再び御者台に乗ると。馬車を走らせ、厩舎へ向かった。


「…」


その姿をヒルダは黙って見届けていると、背後からエドガーが声を掛けてきた。


「ヒルダ、外は冷える。屋敷の中へ入ろう。後約1時間でパーティーが始まる」


「はい、分かりました。ですが…お兄様。今日は本宅へ行っても大丈夫なのですか…?」


「ああ。今日はクリスマスパーティーと言う事もあって領民達が集まってくるからね。他に大事なお客様たちも来ることになっているから…大丈夫なんだ」


「そうですか。それを聞いて安心しました。では中へ入りましょうか?」


「ああ、そうだな」


エドガーは扉を開けた。




 屋敷の中へ入るとフットマンが現れた。


「お帰りなさいませ、エドガー様」


「ああ、ヒルダを連れてきた」


エドガーの言葉にフットマンが目を見開いた。


「え?ヒルダ様ですかっ?!」


「ええ…た、ただいま…」


ヒルダは遠慮がちに言う。


「お帰りなさいませ、ヒルダ様。すぐに旦那様を呼んでまいりますねっ!」


フットマンが慌ただしく廊下を掛けていく。するとすぐに足音がこちらに向かってくる。


そして―。


「ヒルダッ!」


エントランスに父、ハリスが現れた―。


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