　「その分だと、アンナ嬢の話…本当に知らなかったようだな？」

ハリスはエドガーの顔色が変わったのを見ると言った。

「え、ええ。全くの初耳です…そんな話一度も聞かされたことは…」

「…」

ハリスは少しの間難しい顔をして腕組みをしていたが、やがて口を開いた。

「だが、悪い話ばかりでは無い。収穫はあった」

「え…？」

エドガーは顔を上げた。

「今夜、私は貴族会議に参加したのは知っているだろう？」

「ええ、勿論ですが…」

「そこでいくつかお前に縁談の話が持ち上がった」

「え？！」

あまりの突然の話にエドガーは驚いた。

「父上、ちょ、ちょっとお待ち下さい。まだアンナ嬢との正式な破談も出ていないのに、いきなり縁談の話とは…」

「いや、もうアンナ譲との婚姻はほぼ絶望的だ。だからエドガー、選ぶのだ」

「え、選ぶとは…？」

「決まっている。結婚相手だ。彼等はもう分かりきっていたのだろうな。3人の貴族たちから身上書を預かってきている。全員伯爵家の娘で、資産家でもある。私が条件に叶いそうな相手だけを吟味した上で身上書を預かってきた。お前は幸い他の貴族令嬢たちから評判が良かったからな」

言いながらハリスはエドガーの前にクリップで止められた3種類の書類を置いた。

「…」

エドガーは震える手で書類を手に取り、目を通し…息を飲んだ。

「ち、父上。この女性は一体…」

エドガーは震えながらハリスに身上書を見せた。

「ああ…この伯爵家のご令嬢は中々縁遠く、32歳になるのだがまだ独身だ。是非娘を娶って欲しいと頼み込まれて、預かってきたのだ」

「そ、そうなのですか…」

（俺はまだ19なのに…13歳も年上の女性の縁談を持ち込んでくるなんて…）

残りの身上書の相手は1人は20歳の令嬢、そして残りの令嬢は17歳の令嬢だった。

「良いか、エドガー。彼女たち全員と見合いをし…一番こちらの要望する資金援助を提示してくれた女性を…妻に娶るのだ。分かったか？それが…一番良い方法なのだ。いつまでも領民達に貧しい生活を強いるわけにはいかないだろう？彼等の生活を向上させる為には…資金力が必要になる。領民たちを守るのが我ら領主の役目なのだ」

「ち、父上…」

エドガーは心の中で酷く葛藤していた。領民たちを守るのが領主の努めであると言われても、その肝心の領民達はここ、『カウベリー』を収める領主の娘である。それなのに彼等はヒルダをないがしろにしているのだ。

（伯爵令嬢のヒルダに暴言を吐く領民たちなど…本当に守る価値があるというのですか？父上…っ！）

けれど、エドガーに拒否権は無い。もともとエドガーは初めから政略結婚の相手に差し出される為に養子にされたようなものだったのだから。それらは全てヒルダの足の怪我が始まりだった。ヒルダは足の怪我さえなければ、裕福な貴族の家に嫁入させられるはずだったのだ。それが、グレースのせいで大怪我を負い、嫁入りの話は立ち消えとなった。さらに教会消失事件が追い打ちをかけ、ヒルダは『カウベリー』を追われた。その穴埋めとして、エドガーが養子としてフィールズ家にやってきたのだった。

（そうだ…俺は自分の役目を果たさなくてはならないのだ…）

「…分かりました。父上…お見合い…致します…」

エドガーは見合をすることを承諾するのだった―。