第4章 15 それぞれの後悔
あの後…クロード警部補は血まみれの腕を押さえながら必死になって近隣の家々に助けを求め、ある者は警察に、またある者はフィールズ家に伝えに行って貰ったのだった。
そして今、大勢の人々がグレースの屋敷に集まっていた。その中には何人もの警察官の他に左腕に銃弾を受けて治療されているクロード警部補もいた。
グレースの家で惨劇があった1時間後―
「うううう‥う‥ル、ルドルフ‥!」
「ルドルフッ!!どうして死んでしまったのーっ!!」
身体をシートで覆われ、すっかり冷たくなってしまったルドルフにしがみつくようにマルコとルドルフの母が泣きじゃくっている。
「…」
救急隊員によって怪我の応急手当を受けながら、クロード警部補はグッと歯を食いしばり、激しく後悔していた。
(ルドルフ君を死なせてしまったのは俺の責任だ…!安易にこの家に連れて来てしまったから…!こんなことになると分っていれば彼をここには連れて来なかったのに…!)
一方、ハリスとエドガーは青ざめた様子でルドルフの遺体を見つめていた。
(そ、そんな…!ルドルフ…君が死んでしまったら、ヒルダは…ヒルダはどうなってしまうんだ…!俺がいけなかったのかっ?!ヒルダを何とかカウベリーに帰らせる為にグレースに近付かせてしまった…俺のせいでルドルフを死なせてしまったのかっ?!)
エドガーは今程、夢ならどうか覚めて欲しいと願った事は無かった。しかし、悲しい事に今目の前で起きていることは紛れもない現実だった。
「何て事だ…!あのルドルフが…!」
ハリスはクロード警部補の使いの者からルドルフの死を聞かされたとき、真っ先に頭の中に浮かんだのは、愛娘のヒルダの事だった。2人がどれ程愛し合っていたのか、ハリスは気付いていた。
(私の…私のせいなのかっ?!領民たちからの非難を浴びるヒルダを守る為とはいえ、強引に親子の縁を切り、お前を追い出した私の‥そのせいでルドルフを死なせてしまったのか…?!)
そこにいる関係者が…全員、冷たい躯となってしまったルドルフを見つめながら自分の事を責め続けていた―。
腕の怪我の応急手当を受けて、三角巾で左腕を吊られたクロード警部補はまず始めにルドルフの両親に声を掛けようとしたが、とてもではないがそんな状況では無かった。そこで、次に項垂れた様子で立ち尽くしているハリスとエドガーの元に向かうと声を掛けた。
「ハリス様‥エドガー様、少し宜しいですか?」
「あ、ああ…刑事さん…」
ハリスは青ざめた顔でクロード警部補を見た。一方のエドガーは生気の抜けた顔で黙って会釈する。
「こんな時に驚かれるかもしれませんが…聞いて下さい。2年前の教会が焼け落ちた事件の犯人は…つい最近父親の手によって殺害されたグレースの仕業でした。もうすでに当時の関係者の少年少女と…そして自殺したグレースの母から証言は取れています」
「な、何ですと…!や、やはり‥ヒルダが犯人では無かったのですかっ?!」
「当然です。妹が…そんな事をするはずはありません!」
エドガーも力強く言う。
「それだけではありません。御令嬢が左足に大けがを負ったのも…グレースのせいだったのです。全ては御令嬢とルドルフ君の仲を嫉妬しての行動でした。それで今回、グレースの母親に知ってる事を教えてほしいと問い詰めて、全て白状させたのに…彼女は突然部屋を出て行き、戻ってくると猟銃を手にしていました。そしてこちらが止める間もなく、ルドルフ君を撃ったんです…!さらには止めようとした私は腕を撃たれ、あの女は自分で胸を撃ち抜いて自殺しました…」
クロード警部補は頭を下げると、まるで血を吐くかの如く声を振り絞るように言った。
「申し訳ございませんっ!私が…私がいけなかったのですっ!ルドルフ君をあの女の元へ連れて行った…この私のせいです!」
しかし、ハリスは言った。
「いいえ…刑事さん。もとはと言えば…私がいけなかったのです。ヒルダをここから追い出してしまった私が…そのせいで‥か、彼を死なせてしまった…!!」
ハリスはその場に泣き崩れ…愛する人を失った可愛そうな我が娘、ヒルダを今すぐ抱きしめてやりたいと思うのだった―。
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