第4章 14 狂女の凶行

「ああ…そうだよ。フィールズ家のお嬢さんが左足の大怪我を負ったのはあの娘の仕業だよ。イワンを煽って蜂の巣を落とさせた。教会の火事だってそうさ。火の付いた薪を…まさかグレースが持っていたなんて…。だけどあの娘はね、全部その罪を訪ねてきたイワンに押し付けようとしたんだよ。それでフィールズ家に全ての罪を告白してこいって言ってね・・。私はたまたまその話を部屋の外で立ち聞きしてしまったんだ。それで…その翌日だよ。イワンが自殺したのはさ」


グレースの母は何がおかしいのか、クックと笑いながら言う。その姿は2人をゾッとさせた。


「それでその話あの人も知ってグレースを警察に行くように言ったのに…自分には関係ないって言ったんだよ。そしたら…あの人がね、自分の娘に悪魔が取り付いたと喚いて…あの娘の首を思い切り締め上げたんだよ。私が止めるのも聞かずに私の前であの娘を殺した…」


まるで狂女のように肩をふるわえせながら笑うグレースの母はとても正気の沙汰とは思えなかった。けれどルドルフは言った。


「おばさんっ!今の話をハリス様に直接話して下さい!グレースのせいでヒルダ様は大怪我を負っただけではなく、親子の縁を切られてカウベリーを追い出されてしまったんですよっ?!」


しかし、グレースの母は見当違いの話を始めた。


「ああ…あんたはルドルフだったね?うまい事取りいったんだろう?領主のお嬢様と恋仲になって、まんまと貴族になって…うちの娘がずっとあんたに惚れていたのは知っていたんだろう?」


「そんな話は関係無いでしょう?!僕がはじめから好きな女性はヒルダ様なのですからっ!」


それまで2人のやり取りを黙ってクロード警部は聞いていたが、流石にまずいと感じ、2人の間に割って入った。


「まあ、2人とも落ち着いて!もっと冷静にならないと」


クロード警部補はグレースの母に言った。


「とにかく、罪もない少女をいつまでも不遇の立場に置いておくわけにはいかないでしょう?我々と一緒にフィールズ家に行って頂けますね?」


「あ、ああ…。ところで随分この部屋は寒いね。今薪を持ってくるから少し待っていてくれるかい?」


質問の答えになっていない返事をするとグレースの母は部屋を出ていった。それを見届けたクロード警部補が言った。


「どうやら…あの女性は退院するにはまだ早すぎたとは思わないかい?」


「そうですね。僕も…そう思います。だって何となく話が噛み合いませんからね」


「ああ、そこなんだよ。果たして彼女が素直にフィールズ家に来てくれるかどうか…」


その時…


バンッ!!


突然勢いよくドアが開かれ、驚いたルドルフとクロード警部補は立ち上がった。見るとグレースの母は手に猟銃を握りしめている。


「ルドルフッ!!あんたのせいだ…!あんたが娘の気持ちを踏みにじったからこんな目に…」


そして引き金を引いた。


「よせっ!!」


ズガーンッ!!


激しい音によってクロード警部補の声はかき消された。


「うっ!!ゴホッ!」


その瞬間、ルドルフは自分の胸が熱く焼けるような感覚と共に口から大量の血を吐き出してしまった。


(そ、そんな…う、撃たれた…?)


そしてそのまま床に倒れてしまったが、もはや痛みすらルドルフには感じられなかった。


「よせっ!」


クロード警部補がグレースの母に飛びかかろうとした時、さらに彼女は引き金を引いた。


ズガーンッ!!


「うっ!!」


クロード警部補の左腕から血がほとばしり、彼は床に崩れ落ちてしまった。


「フフフ…いい気味だよ…」


そしてグレースの母は自分の胸に猟銃を押し付け、引き金を引いた。


ズガーンッ!!


激しく血を吹き出し、グレースのは母はそのまま背後に倒れてピクリとも動かない。


「ル…ルドルフ君…!」


クロード警部補は血まみれで倒れているルドルフに必死で近づくと覗き込んだ。


「ルドルフ君っ!!」


するとルドルフは薄めを開けた。


「け…刑事さん…ぼ、僕は…ヒ、ヒルダ様に・・伝えたいことが沢山…あったのに…」


ルドルフの目から涙がこぼれた。もう身体の感覚は何も感じられなかった。


「ルドルフ君っ!!」


ルドルフはもう返事をする事も出来ない。そして自分の死を覚悟した。


(ヒルダ様…僕はもう…駄目みたいです…最後にもう一度だけ…ひと目、貴女に会いたい…僕は貴女を…)


そこでルドルフの意識は完全に事切れた。


「ルドルフ君っ!!」


クロード警部補の悲痛な声が血の臭いが漂うがらんどうの部屋に響き渡った―。

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