第3章 9 不気味な占い

 ルドルフとヒルダが並んで店を出ると、先ほどまでは誰もいなかったのにボロボロのコートをはおり、フードを目深にかぶった人物が座り込んでいた。そして2人を見上げると言った。


「おお・・・何と身なりの良い方々なのでしょう・・どうかこの哀れな老婆に御恵みを・・」


細く、しわがれた手を必死で伸ばす老婆にルドルフは胸を打たれた。


(こんな高齢のおばあさんが・・・物乞いをする町があるなんて・・)


カウベリーも確かに田舎で貧しい町ではあったが・・村中で助け合って生きていたので物乞いをするような人々はいなかった。


「ルドルフ・・・おばあさん、可哀相だわ・・」


そしてヒルダは肩から下げていたショルダーバッグからお財布を出そうとしたとき、ルドルフが止めた。


「ヒルダ様、僕が出します」


そしてルドルフは銀貨を1枚取り出すと手渡した。


「どうぞ、おばあさん」


そしてニッコリ微笑むと、初めて老婆は顔を上げるた。


「な、なんと・・・こんな・・銀貨を下さるなんて・・」


老婆は深々と頭を下げて銀貨を受け取ると言った。


「親切なお方だ・・・お礼に占いをして差し上げましょう・・実は私は昔こう見えても辻占いをしていたのですよ・・」


「いえ・・占って頂かなくても大丈夫ですよ」


ルドルフは占いは信じないタイプだったので断ったのだが、老婆はどうしてもひこうとしない。


「そんな事言わずに・・せめてものお礼をさせて下さい・・」


そして老婆はルドルフの返事も聞かずに懐から水晶玉を取り出した。


「これは・・・・私が物乞いに転落しても手放さなかった水晶なのです・・」


そしてルドルフの前に掲げた。


「「・・・」」


ヒルダとルドルフは黙って水晶玉を見つめると、やがて老婆が顔を上げてルドルフを見ると言った。


「おお・・・な、なんという事だ・・・・」


老婆は震えている。


「おばあさん・・どうしたのですか?」


ヒルダは尋ねた。すると老婆はヒルダをじっと見つめると言った。


「この少年は・・貴女の恋人ですか・・・?」


「は、はい・・そうです」


ヒルダは頬を染めると頷いた。すると老婆はますます震えながらルドルフを見た。


「お気をつけなされ・・死相だ・・・貴方に死相が見える・・」


「え・・?」


ルドルフは眉をひそめた。


「し・・死相っ?!」


ヒルダはその言葉に真っ青になり、ルドルフを見つめた。


「ル・・ルドルフ・・」


ヒルダの声は震えている。


「大丈夫ですか?ヒルダ様。」


ルドルフはヒルダを抱きしめると老婆に言った。


「あの・・占って頂いてこんな言い方をするのはどうかと思いますが・・あまり妙な事を言って・・この方を怖がらせないで頂けますか?」


しかし老婆は首を振る。


「どうか気を付けなされ・・。これはお守りです。どうか・・どうか肌身離さず持っていて下さい」


老婆は懐から小さな布袋をルドルフに差し出す。しかしルドルフは物乞いの老婆から物を貰う事は考えていなかった。


「いいえ、僕なら大丈夫ですから・・」


「そのお守り・・くださいっ!」


ヒルダが老婆に言った。


「どうぞ、お嬢さん」


老婆はヒルダにお守りを手渡すとヒルダはそれをしっかり握りしめた。


「行きましょう、ヒルダ様」


ルドルフはヒルダの肩を抱くと馬車へと連れて行った。ルドルフは馬車に乗る寸前、老婆の方を振り向くと、彼女はじっとこちらを見つめていた・・。



ガラガラガラガラ・・・


揺れる馬車の中、ヒルダはルドルフに抱き着いたまま離れようとはしなかった。


「ヒルダ様・・・」


ルドルフはヒルダをしっかり抱きしめ、金の髪を撫でながら言う。


「あんな占い、気にする事はありません。所詮・・・ただの占いですから。」


しかし、ヒルダは無言で首を振ると身体を震わせながらますますルドルフを抱きしめる。


「大丈夫です・・僕が愛するヒルダ様を置いて・・先に逝くはずないじゃありませんか。身体だってどこも悪いところはないのですから・・」


ルドルフはヒルダを落ち着ける為に、ホテルに着くまで語り続けるのだった―。

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