第3章 10 気晴らし
ルドルフとヒルダは今日チェックアウトしたホテルに再び戻ってきた。
「すみません。また本日部屋を借りたいのですが・・空いていますか?」
ホテルマンは首を傾げながらカウンターに立つ2人を見つめた。ヒルダは青ざめた顔でピタリとルドルフに寄り添い、離れようとはしない。
「ええ・・空いております。また2部屋ですね?」
「はい。」
すると・・・
「い・・いや・・・」
ヒルダが小声で言う。
「ヒルダ様?」
ルドルフはヒルダを見た。ヒルダは小さな手でギュッとルドルフの袖を握り締めると言った。
「ひ・・1人は嫌・・・一緒がいいの・・」
必死で搾りだす声は・・震えていた。
「ヒ、ヒルダ様・・・」
ルドルフは困ってしまった。過去に婚約していたとはいえ今は解消している。婚姻前の男女が同じ部屋に泊まるのは良くないことだとルドルフは思っていた。けれども必死になって自分を見つめるヒルダを見ていると、とてもではないが駄目ですとは言い出せなかった。
(仕方ない・・・こんなに怖がっているのだから・・)
そこでルドルフは尋ねた。
「すみません・・・2人部屋はありますか?」
「ええ、ございます。お部屋も広く、ベッドも2台ありますので」
「ではその部屋をお願いします」
「はい、かしこまりました。503号室をお使い下さい」
「ありがとうございます」
カギを受けとるとヒルダを見た。ヒルダはうつむいたままルドルフにつかまり、口を閉ざしていた。
「ヒルダ様・・・部屋に行く前に、レストランでお昼ごはんにしませんか?」
ルドルフはヒルダの気を紛らわすために尋ねた。
「ええ・・・」
ヒルダは小さくうなずき、ルドルフの手をギュッと握りしめた―。
****
「どうですか?ヒルダ様」
ルドルフはパンケーキを食べているヒルダに尋ねた。
「美味しいわ、とても」
甘いパンケーキでようやく少しヒルダの気がまぎれたのか、笑みを浮かべてルドルフを見る。
「それなら良かったです。とりあえず食事がすんだら、ロータスのカミラさんのお姉さんにもう1日帰ることが伸びたことを電話で知らせた方がいいですね」
「ええ・・・カミラには心配かけさせてしまうかもしれないけど・・・」
ヒルダはルドルフの顔を見つめた。
(それでも・・・私は少しでも長くルドルフと一緒にいたい・・・!それなのに・・死相なんて・・・!)
ヒルダにはずっとあの老婆の不気味な占いが頭から離れなかった。肝心のルドルフ本人はもともと占いを信じるタイプではなかったが、ヒルダはそうではなかったのだ。
「・・・」
ルドルフはすっかりふさぎ込んでしまったヒルダを見つめていた。
(ヒルダ様・・・まさかあんな占いを信じてしまうなんて・・・。ここは何もない町だし、観光できるような場所でもない・・何か気分が紛れるような事でもあればいいのだけどな・・・)
しかし、その反面ルドルフは不謹慎ながらも嬉しい気持ちもあった。まさか老婆の占いの言葉をヒルダがそれほど気にして自分の身を案じてくれるとは思わなかったからだ。
(ヒルダ様・・・僕は貴女の愛を・・信じてもいいんですよね・・・?)
ルドルフは心の中でヒルダに語り掛けるのだった―。
****
食後―
ヒルダはホテルのカウンターで電話を借りてカミラの姉に電話を掛けて、帰る日程が1日延びる事になった旨を伝えた。カミラの姉は最初は驚いていたけれども事情を説明すると納得してくれ、カミラに伝えると約束してくれた。
「お待たせ、ルドルフ。あら・・・何を持っているの?」
ようやく少しだけ元気になったヒルダがルドルフの元へやってきて、手にしているものに気が付いた。
「ええ。ホテルのカウンターに貸し出し用のトランプがあったんです。良かったら部屋でトランプでもして遊びませんか?」
ルドルフはヒルダの気晴らしになればと思い、フロントにトランプが置いてあることに気づき、レンタルしたのだった。
「まあ。トランプ?面白そう、やりましょう」
ヒルダはこの時になり、ようやく笑顔を取り戻した―
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます