第1章 17 2年越しに伝える言葉

「あの・・お話の前に・・新しくお茶を淹れるわ・・。」


ヒルダが立ち上がろうとした時、ルドルフがそっとヒルダの右手に触れた。


「!」


ヒルダは途端に頬を赤く染めてルドルフを見た。


「ヒルダ様・・・僕が淹れます。どうか座っていて下さい。」


「で、でも・・。」


するとルドルフはそのままヒルダの手を握り締めると言った。


「僕がヒルダ様の為に・・淹れたいんです。」


「あ、ありがとう・・・それじゃ・・お願いするわ・・。」


ヒルダは頬を染め、俯きながら言うとルドルフはそっとヒルダの手を離し、立ち上がるとヒルダの替わりにお茶を淹れる準備を始めた―。




「どうぞ、ヒルダ様。」


ルドルフは淹れたてのカウベリーティーをヒルダの前にコトンと置いた。


「ありがとう。」


カップを手に取り、フウフウと熱を冷ましてヒルダは口を付けた。


「・・美味しい。」


「ありがとうございます。」


ルドルフは笑みを浮かべた。


「ルドルフ・・・私、貴方と婚約できた時・・本当に・・とっても嬉しかったの・・。でも・・本当は・・私が足の怪我を負った責任を取らされたのよね?」


ヒルダの言葉にルドルフは動揺を隠せずに言った。


「そ、それは違います!僕は・・初めてヒルダ様に会った時から・・ずっとヒルダ様の事が好きでした!だから・・ヒルダ様との婚約が決まった時・・本当に嬉しかったのです。」


「!」


その言葉にヒルダは顔を真っ赤に染めながらも言う。


「そ・・そうだったの・・。私ったら・・馬鹿よね・・・。ルドルフの言葉を初めから信じていれば・・こんな事にはならなかったのに・・。ルドルフは・・あまりにも素敵だから・・・こんな足が不自由な私を押し付けられて・・・何て気の毒なのだろうって思って・・・それで・・。」


「それで?婚約を破棄にしたのですか?ひょっとして・・・そのことをグレースに責められたのですか?」


ルドルフの言葉にヒルダの肩がピクリと動き・・・コクリと頷いた。


「やはり・・そうだったんですね・・・?」


(エドガー様の考え通りだった・・・!グレースが・・僕とヒルダ様の中を引き裂いたんだ・・!)


ルドルフの中で、今はもう死んでしまったグレースに対しての怒りが再びこみ上げてきた。ルドルフは呼吸を整えるとヒルダに尋ねた。


「ヒルダ様・・・グレースは・・何と言ってきたのですか?」


「ルドルフは・・私の恋人だから・・・別れてと言われたわ・・。とっても泣かれて・・泥棒猫って呼ばれたの・・・。」


「泥棒猫・・・。」


ルドルフはテーブルの下で、強く拳を握り締めた。


(許せない・・・グレース・・。僕の・・僕の大切なヒルダ様を・・よりにもよって泥棒猫呼ばわりするなんて・・・!)


「どうしたの?ルドルフ・・・顔色が悪いわ・・。」


ヒルダは心配そうにルドルフに尋ねて来た。


「いえ、ヒルダ様・・・大丈夫です。でも・・・グレースにそんな事を言われたんですね・・。」


ルドルフは改めてヒルダを見ると言った。


「ヒルダ様。僕は・・一度でもグレースの事を好きになったこと等ありません。僕がずっと好きだった人は・・・ヒルダ様、貴女1人だけです・・。貴女を・・愛しています。」


「ル・・ルドルフ・・・。」


再びヒルダの目に涙が浮かんできた。自分が好きな相手に愛を告げられる事がこんなに嬉しい事だとは思わなかった。


「あ、ありがとう・・・こんな・・足が不自由で・・何もかも無くしてしまった私の事を・・そんな風に言ってくれるなんて・・。」


ヒルダはテーブルの上に組んだ両手をギュッと握りしめながら言った。そんなヒルダを愛し気に見ながらルドルフは言葉を続けた。


「ヒルダ様、僕は貴女が教会の火事を起こした何てこれっぽっちも思っていません。さっきも言った通り・・本当に僕は貴女を救いたいんです。お願いです、どうか・・本当の事を話して頂けますか?」


「え、ええ・・全部・・話すわ・・・。」


そしてヒルダはあの教会の火事について・・ポツリポツリと語りだした―。


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