第1章 16 酷な頼み

 ルドルフに強く抱きしめられて、ヒルダの心臓はドキドキと早鐘を打っていた。


(ルドルフは・・本当に私を追って学園に転入してきたの・・?グレースの話は・・嘘だったの・・?それに・・私を救いたいって・・・それは・・・人目を気にせずに・・故郷に帰れるようにしてくれるって事なの・・?)


「ル・・ルドルフ・・・わ、私・・・っ!」


ヒルダはルドルフにしがみつくと、激しく泣きじゃくった。そんな自分を強く抱きしめてくれているのが嬉しかった。ヒルダは涙が止まる迄・・いつまでもルドルフの腕の中で泣き続けた・・・。




それからしばらくたってからの事・・・。


ルドルフは自分の向かい側の椅子に座るヒルダに優しく語り掛けた。


「どうですか・・・?ヒルダ様。少しは・・落ち着きましたか?」


「え、ええ・・・。ごめんなさい・・・ルドルフの前で・・・あ、あんな子供のように泣きじゃくってしまって・・・。」


ヒルダはまだ赤い目をこすり、恥ずかしそうに俯きながら言った。


「いえ・・・いいんですよ。それで・・グレースと何があったのか話してくれますね?」


ヒルダは黙ってコクリと頷くと・・思いつめた目でルドルフを見つめた。


「その前に・・・ルドルフに話しておきたいことがあるの・・・。」


「はい、どんな話ですか?」


「あ、あの・・・実は私・・この間・・カウベリーに行ってきたの・・お兄様の婚約者の方からお電話を頂いて・・私が故郷へ里帰りできるように手配してくれたの・・。それで病気でベッドに臥せっていたお母さまと無事会うことが出来て・・・。本当はもっと長く滞在したかったのだけど、あんな事件が起こってしまったから・・。」


ヒルダは寂しそうに俯きながら言う。


「アンナ様のお陰ですよね・・・ヒルダ様がカウベリーに帰る事が出来たのは。」


「え・・・?ルドルフ・・もしかして・・知っていたの?私が・・カウベリーに帰った事・・・。」


「はい。カウベリーに帰った時にルドルフ様とお話をしているときにアンナ様が現れて・・ヒルダ様の話になったのです。あのアイデアは、全てアンナ様が考えた案だったのです。」


「まあ・・・そうだったの・・・?」


「すみませんでした・・・ヒルダ様。」


突然ルドルフが頭を下げて来た。


「え?何故謝るの・・・?」


「はい・・僕はヒルダ様がカウベリーに来ている事を知っていながら・・・知らないふりを通そうと思ったのです。ひょとすると・・ヒルダ様は故郷へ帰った事を知られたくないのではないかと思って・・でもご自分の方から話をして下さったので・・。」


「そ、そんな・・謝らないで頂戴。ルドルフ。そんな事は当然よ・・だって私は・・カウベリーに住む人達から・・・嫌われているから・・。あんな事件を起こして・・・。」


ヒルダは震える手で、すっかり冷めてしまったカップを持つとお茶を飲んだ。


「そうです、ヒルダ様。その事件についてです。お願いです・・・どうか本当の事を話して下さい・・あの教会の火事・・本当は燃やしてしまったのは・・ヒルダ様ではありませんよね・・?」」


ルドルフは真剣な瞳でヒルダを見つめた。


「・・・。」


ヒルダは返事が出来なかった。今更本当の事を話しても・・・ルドルフは信じてくれるかもしれないけれども、他の領民達はどう思う?嘘をつくなと言われてしまうのではないかと思うと、どうしても言い出せなかった。

しかし、そんなヒルダの考えが分かったのか、ルドルフが言う。


「ヒルダ様・・・今回僕が帰省した時に・・イワンに会ったのです。彼は僕を見ると酷く怯え・・その後ハリス様に謝罪の手紙を送ってきたのです。何に対しての謝罪なのかは結局分かりませんでしたが・・その後すぐに・・イワンは列車に飛び込んで自殺してしまいました・・。そして同じ日に・・グレースは父親に殺されてしまったんです・・。」


「!」


ヒルダの方がビクリと大きく跳ねた。


「ヒルダ様・・・貴女なら・・・何故、この2人が死んでしまったのか・・心当たりがあるのではないですか・・?」


「ルドルフ・・・。」


ヒルダが何処か怯えた目でルドルフを見つめる。


酷な事を聞いているのは百も承知だった。だが・・・ルドルフはどうしても真実を明らかにして、ヒルダの無実を証明したかったのだ―

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