第1章 15 ルドルフの告白

 カウベリーティーを一口飲むと、ルドルフは向かい側の椅子に座るヒルダを見た。

ヒルダはフウフウと冷ましながらコクンコクンとお茶を飲み・・じっと見つめているルドルフの視線に気づき、頬を染めた。


「な、何・・?ルドルフ・・・。」


「あ・・・いえ。ヒルダ様に・・どうしても話しておきたい事があって・・。」


「どんな話?」


「僕が・・セロニア学園に転校してきた理由です。」


するとヒルダは少し考えながら言った。


「そうね・・・セロニア学園は頭の良い学校で大学進学率も高いし、貴族も平民も分け隔てなく入学出来る素晴らしい学校だから転校してきたのでしょう?カウベリーにはルドルフの様に頭の良い人には勿体ないものね。」


するとルドルフが言った。


「いえ・・僕よりも・・・エドガー様の方が・・ずっと優秀だと思いますよ。」


「やっぱり・・ルドルフはお兄様の事・・・知っていたのね。」


「はい・・。親しくしております。」


「お兄様も優秀な方だから・・。それに素晴らしい方だものね・・。」


ヒルダの言葉をルドルフは複雑な思いで聞いていた。エドガーは恐らくヒルダの事を愛している。けれど・・・肝心なヒルダはその事に気が付いていないのだ。そして今、ヒルダはルドルフの前でエドガーの話をしている・・。


「どうかしたの?ルドルフ。」


ヒルダに声をかけられ、ルドルフはハッとなった。


「い、いえ。何でもありません。それでヒルダ様・・・僕がセロニア学園に転校してきたのは・・エドガー様にヒルダ様がセロニア学園に通っているという話を聞いたからなのです。」


「え・・?」


(そ、それじゃ・・・もしかしてルドルフは・・・?)


ヒルダはドキドキしながらルドルフの次の言葉を待った。


「ヒルダ様・・僕は貴女を追って・・セロニア学園に入学してきました。どうしても・・ヒルダ様の事が忘れられなくて・・。」


「!」


それを聞いたヒルダの目に涙が溢れてきた。


「え・・?ヒルダ様・・?」


ルドルフは突然のヒルダの涙に戸惑った。


(もしかして・・・僕はヒルダ様を困らせる事を言ってしまったのだろうか・・?僕の事を好いてくれていると思っていたけど・・?もしかして今ヒルダ様が好きな相手は・・フランシスという人物なのだろうか・・?)


「ヒルダ様・・・何故、泣いているのですか・・?僕・・また貴女を困らせていますか・・?」


ルドルフはためらいがちに尋ねた。


「ううん・・そうじゃないの・・・。う、嬉しくて・・。」


ヒルダは涙を拭いながら笑みを浮かべてルドルフを見つめた。


「!」


次の瞬間・・・椅子から立ち上がったルドルフはヒルダを強く抱きしめていた。


「ル、ルドルフ・・?」


戸惑うヒルダの声が聞こえる。ルドルフはヒルダを抱きしめる腕に力をこめると言った。


「ヒルダ様・・・僕は貴女の事が好きです。初めて会った時から・・・お願いです。どうか信じて下さい・・。」


「え・・?」


ヒルダは耳を疑った。けれどもルドルフは自分を追ってここまで来てくれていたのだ。もはや、疑う余地も無かった。


「ほ、本当に・・それじゃ・・グレースさんが・・恋人だった事は一度も無かったの・・?」


ルドルフの腕の中でヒルダは尋ねる。


「え・・?」


ルドルフはヒルダの身体を離し、両肩に手を置くと真剣な目でヒルダをじっと見つめた。


「ど、どうしたの・・?ルドルフ・・。」


「ヒルダ様・・・今、グレースの名前が出ましたが・・やはり彼女に何か言われたんですね?」


「あ・・。」


ヒルダはルドルフから視線をそらせた。


(ど、どうしよう・・私、余計な事を言ってしまったわ・・。)


「ヒルダ様。僕の目を見て下さい。」


ルドルフに言われ、ヒルダはルドルフの目を見つめた。


「グレースは・・もう死んだんです。この世にはいません。だから、本当の事を話して下さい。一体グレースとヒルダ様の間に何があったのか・・・。僕は・・僕は貴女を救いたいんです・・っ!」


そして再びルドルフはヒルダを強く抱きしめた―。

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