第11章 12 悪女グレース

「な・・何ですって・・イワンッ!あんたって人は・・どこまで間抜けなのよっ!」


グレースの部屋に彼女自身の怒声が響き渡る。


「ううう・・ご、ごめん・・グレース・・・。ル、ルドルフに駅で偶然に会って・・俺・・こ、怖くなって・・・。」


イワンはハリスに謝罪の手紙を書いて出してしまったことをついにグレースに告白してしまったのだ。そしてそれを聞いたグレースは当然烈火のごとく激怒した。


「この・・・っ!あんたが余計な真似をしたせいで・・ルドルフと・・よりにもよってあのヒルダの義理の兄がこの家にやって来たのよっ?!」


「だ、だけど・・俺は領主様には・・手紙の事皆に内緒にして下さいって・・・お願いしたんだよ・・?」


イワンのその言葉はますますグレースの怒りに火をそそぐだけだった。


「この・・間抜けっ!本当に・・・何て事してくれたのよ!だいたいねえ・・フィールズ家の当主はあんたの名前も知らないのよっ?!そんなあんたの手紙・・誰だって悪戯だと思って誰かに相談するに決まっているでしょう?!だからあの2人が私の処にやってきたのよ?分かってるのっ?!」


「うう・・ごめん・・・ごめんよ・・・グレース・・・・。」


イワンはボロボロと哀れなほどに泣き崩れている。そんなイワンを見てグレースは忌々し気に舌打をした。


(全く・・・よりにもよって・・・何でこの間抜けなイワンがカウベリーに残ったのよ・・。コリンやノラだったらこんなヘマはしなかったはずよ。なのに・・あの2人は卒業と同時に逃げるようにこの村を出て行って・・都会に就職してしまったし・・残ったのがこの馬鹿なイワンだったなんて・・!最悪だわ・・っ!」


グレースは思い切り軽蔑の目をイワンに向けると言った。


「いい?イワン・・・あの教会を燃やしたのは・・今のところヒルダとなっているけど・・ルドルフとエドガーは完全に私を疑っているわ。大体・・あの教会が焼け落ちた結果・・ヒルダがどうなってしまったか知っているでしょう?」


グレースの言葉に、イワンは泣きながら頷く。


「し・・・知ってるよ・・ヒ、ヒルダは家族の縁を切られて・・この村から嫌われて・・追い出されたんだろう・・?そのせいでヒルダのお母さんは病気になって・・そ、そうだ!グレース・・・お、俺・・・ヒルダらしき少女を駅で見かけたんだよ・・!」


「な・・何ですって?!どうしてその話をもっと早くしないのよっ!」


グレースの焦りはますますピークに達していた。


(まずいわ・・・ひょっとするとヒルダがここに戻って来たって言う事は・・・あの2人が何か手がかりを掴んだのかしら・・?犯人の目星でも見つけたとか・・?)


もう一刻の猶予もならないとグレースは思った。幸い、ノラもコリンも遠くの町に働きに行き、一度も里帰りしたことがないのだ。


(きっとあの2人は・・・もう二度とカウベリーには戻らないかも・・と言う事は・・。)


グレースの目の前には泣き崩れている頭の弱いイワンしかいない。


(そうよ・・・イワンには悪いけど・・・全ての罪を被ってもらえばいいのよ。だってもともとはヒルダの足の怪我も・・私があの場所で薪を落としたのも・・・全ての原因はイワンのせいなんだから・・!)


そしてグレースはイワンを指さすと言った。


「いい・・・?何度も言うけどヒルダが足を怪我したのは、あんたが蜂の巣を叩き落として、ヒルダの乗っていた馬を驚かしたからよ。そして教会の火事は・・火のついた薪を握っていた私の腕をあんたが強く握りしめたから・・・腕が痛くなって薪を落としてしまった・・それも全てあんたのせいよ!」


「お・・・俺のせい・・?」


イワンの目からは後から後から涙が零れ落ちていく。


「ええ、そうよ。だから・・さっさとフィールズ家に言って自分の罪を全て告白してきなさいよっ!正直に言えば・・許してもらえるかもしれないでしょうっ?!」


グレースは心にもないことを言った。そんな事を言えばただで済むはずがないのは分かり切っていたが、イワンなら騙せると思ったのだ。


「う・・・・わ・・・分かった・・・よ・・。」


イワンはふらりと立ち上がり・・ヨロヨロとグレースの部屋を出て行った。


「ふん・・余計な手間をとらせて・・・・!」


そんなイワンの後ろ姿をグレースは忌々し気に言った。


けれど、この時のグレースはまだ何も分かっていなかった。


この後大事件が起こるという事に―。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る