第11章 11 イワンとグレース
「よく来てくれたわね。イワン・・・。」
グレースは頭から毛布を被り、顔を隠したままイワンに語り掛けた。一方、グレースの向かい側の椅子に座るイワンの身体は恐怖で小刻みに震えている。
それを見ていたグレースは心の中でほくそ笑んでいた。
(フフフ・・・・イワンたら・・すっかり震えて怯えているわね・・。)
そこで意地悪く尋ねてみる事にした。
「どうしたの?イワン・・・・さっきから一言も話さずに震えているけど・・私に用事があって来たんじゃなかったの?」
するとイワンが震えながら口を開いた。
「グ・・・グレース・・・。ど、どうしてこの部屋・・・こんなに暗くしてるんだい・・?」
辺りをうかがうように視線を移動しているイワンを見てグレースは口元に意地悪そうな笑みを浮かべた。
「そう・・?ならカーテンを開けてよ。イワンになら・・見せてもいいかもね。」
「え・・?見せるって・・・一体何を・・?」
しかし、グレースはそれには答えずに言った。
「何してるのよ?早くカーテンを開けて頂戴。」
「わ・・分かったよ・・。」
イワンは立ち上がると。2か所ある窓のカーテンを開けた。すると途端に窓の外には銀世界に包まれた外の風景が現れ、部屋の中を明るく照らした。
「あ・・開けたよ・・・ヒッ!!」
カーテンを開けてグレースの方を振り返ったイワンは思わず悲鳴を上げた。そこには毛布をはがし、髪を掻きあげてこちらを見るグレースの姿があったからだ。
顔の縦半分に唇を縦断するように走った醜いケロイドの後・・唇はケロイドのせいで半分引きつり、ケロイド部分は赤紫色の肌になっている。
「ほら、見て・・・私の顔・・酷いものでしょう?あの火事の日・・焼けた柱が私の顔に運悪く当たって、こんな顔になってしまったのよ?お金があれば腕のいい整形外科医の先生の手術を受けて、この醜い傷跡を消すことも可能らしいんだけど・・・。」
グレースはユラリと立ち上がるとイワンに近付いていく。
「ヒ・・・。」
イワンはすっかり醜くなってしまったグレースの顔をまともに直視するのが怖かった。それほどグレースの顔は醜く歪んでしまっていたのだ。
「我が家はすっかり落ちぶれて・・・手術するお金も無いの。この家だって・・本当は出て行かなくちゃならないのよ?」
そう・・本当はこの屋敷は売りに出されているのだ。だから本来はグレース達はこの屋敷にいてはいけない存在。しかし彼らは出て行こうとしない。またカウベリーの人々もグレースの父や母が恐ろしく・・文句を言う人間は誰もいなかった。それ故、彼らは図々しく未だに居座り続けていたのだ。
グレースはイワンに顔を近づけるとイワンの口から恐怖に震える声が漏れた・
「あ・・・。」
(そんな・・・そんな事俺に言ってどうするつもりなんだよ・・・!)
その時・・グレースの言葉から信じられない台詞が飛び出した。
「あんたたちのせいよ・・・。」
「え・・?」
「私がこんな体になってしまったのは・・・全部あんたたちのせいなのよ。」
「グ・・・グレース・・?」
イワンにはグレースが何を言っているのか理解出来なかった。もともと火事になったのはグレースが火のついた薪を自分に近づけようとして・・・。
そこで思い出した。
(そうだ・・・あの時、俺が薪を握ったグレースの腕を掴んだから・・!)
青ざめたイワンを見てグレースは醜い笑みを浮かべた。
「そうよ・・イワン。ぜーんぶ貴方がやった事なのよ?ヒルダの足の怪我も・・教会が火事になってしまったのも・・そして私がこんな火傷を負ったのは・・・あんた達が私を置いてさっさと教会を逃げ出したからよっ!あれだけ散々人の世話になっておいて・・!」
グレースはイワンを指さすと叫んだ。
「あ・・・そ、そんな・・全部俺の・・・せい・・?」
イワンはその場に崩れ落ちた。
それを見てグレースは思った。
(フフフ・・・これだけ追い込めば・・・きっと私が追及された時イワンの名を口にすれば・・絶対にイワンは全ての罪を自分で被るはずよ・・。)
その時、グレースはふとある疑問がわいた。
(そう言えば・・・何故突然ルドルフとエドガーがやって来たのかしら・・2年も経ったって言うのに・・おまけに偶然イワン迄やって来るなんて・・何か変だわ・・?)
ひょっとすると今回3人が自分の前に現れたのは偶然ではないのかもしれない・・そう思ったグレースはイワンに尋ねてみる事にした。
「ねえ・・イワン。あなたに聞きたい事があるのだけど・・・・?」
グレースは目に涙を浮かべて真っ青になりながら震えるイワンに声をかけた―。
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