第11章 9 ヒルダの帰郷 9
ヒルダ達を見送ったエドガーは屋敷に戻り、応接室へ足を向け・・ピタリと止まった。そこにはマーガレットの部屋に向かったはずのハリスが窓の外を向いて立っていたからだ。
(な、何故・・・父がこの部屋に・・?しかも窓の外を眺めていた。まさか・・さっきの様子を見られたのだろうか・・?)
エドガーは内心の焦りを隠しつつ、ハリスに声を掛けた。
「父上、母の部屋にいたのではありませんか?」
「ああ・・エドガー。マーガレットの様子は見てきたよ。少し話もしてきた。本当に驚いたよ。顔色も良くなっていたし・・今夜は起き上がって食事を取ってみると話していたよ。」
ハリスの話にエドガーは笑顔になった。
「本当ですか?母は・・本当に身体の調子が戻ってきたのですね?」
(やはりヒルダに会わせたお陰だ・・2人を引き会わせてくれたアンナ嬢には感謝しかないな・・・。今度アンナ嬢に何かプレゼントでもしよう。)
笑みを浮かべて考え事をしていたエドガーをじっと見つめていたハリスが声を掛けてきた。
「エドガー。」
「はい。何でしょう?」
「アンナ嬢が連れてきたご友人というのは・・・少女なのか?」
「え、ええ・・・そうですが・・?」
エドガーは戸惑った。何故ハリスが突然アンナの友人について尋ねて来るのか不安に思ってきた。
「そうか・・・まだ『カウベリー』には滞在する予定があるのだろうか?」
「え、ええ・・恐らく後数日は・・・。」
エドガーは心臓がドキドキしてきた。
(何だ?一体父は・・何を言い出す気なのだろう?)
「そうか・・なら、明日は忙しいからな・・明後日、この屋敷に招かないか?祝いのパーティーでも開きたいからな。」
「え・・?パーティー・・・?祝いの・・?一体祝いとは何の事でしょうか?」
内心の動揺を押さえつつ、エドガーは尋ねた。
「そんな事は決まっているではないか。マーガレットの快気祝いだよ。まぁ・・まだ快気祝いをするには、ほど遠いかもしれないが・・明日は医者を呼んで診察をして貰おう。そしてマーガレットとの体調が良ければパーティを開くのだ。」
「わ・・分かりました。」
エドガーは何とか返事をした。
「そうか、ではエドガー。執事に申し付けて、明日のマーガレットの往診を頼むように伝えて置いてくれ。仕事の事で話があるから1時間ほどしたら執務室に来てくれ。」
「はい。」
エドガーは頭を下げると、ハリスは満足気に頷き部屋を去って行った。
「・・・。」
1人部屋に残されたエドガーは明後日のパーティーの事を考え・・・頭を抱えた。
(しまった・・まさかこんな事になるとは思ってもいなかった。とりあえずまだアンナ嬢達は屋敷に帰っていないだろうから・・夜にでも電話を入れてみる事にしよう。)
そしてエドガーは深いため息をついた―。
その頃―
グレースの家の前には1人の少年が青ざめた顔で白い息を吐きながら立っていた。その少年は・・イワンであった。
「・・・・。」
イワンは神妙な面持ちでグレースの家の玄関をじっと見つめていたが・・やがて意を決してドアノッカーを掴むと、ドアをノックした。
コンコン
少しの間、待っているとやがてドアの外から声が聞こえてきた。
「・・・どちら様ですか?」
それはグレースの母の声だった。
「あ、あの・・・俺・・イワンです。」
「え?イワン?」
するとドアがガチャリと開けられ、グレースの母が顔を出した。そしてイワンを見ると言った。
「イワンじゃないかい・・・。卒業以来だねぇ。それにしてもすっかり大人っぽくなって・・・確か駅で清掃の仕事に就いたって聞いたけど・・本当かい?」
「ええ、そうです。」
「そうかい、いい仕事が見つかって良かったじゃないか?」
「はい。あの・・それでグレースはいますか?」
「ああ・・いるにはいるけど・・・。」
そしてチラリとイワンを見ると囁くように言った。
「実は・・この間グレースに会いに来た人がいるんだよ。誰だと思う?あの火災事件以来グレースを尋ねて来る人物なんか殆どいなかったって言うのに・・。」
「え・・?誰が来たんですか・・?」
イワンは心臓が苦しくなってきた。
「何と・・あのルドルフと・・領主様の息子のエドガー様が来たんだよっ!」
「え・・っ?!」
イワンはその話を聞いて、グレースの家に来たことを激しく後悔するのだった―。
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