嫌われた令嬢、ヒルダ・フィールズは終止符を打つ

第4章 9 エドガーと少年たち

「「「「ヒルダーッ！！！！」」」」

フランシス達、全員が波止場へ向かって走ってくる。それに気づいたエドガーが言った。

「おや？彼らは・・？」

「あの人たちは・・クラスメイトです。でも・・まさかこの島に来ていたなんて・・・。」

ヒルダは目を見開いて彼らが走ってくるのを見守っていた。

「ヒルダ。友達がいたんだな・・・良かったじゃないか。」

エドガーは笑みを浮かべてヒルダを見る。

「お兄様・・・。」

ヒルダもエドガーを見つめた。

一方、苛立ちを隠せないのはフランシスだった。走りながら言う。

「くそっ！誰だ？あの男は・・・よくもヒルダにっ！」

それを聞きながらマイクは思った。

（それはこっちのセリフだ。よくもあの男・・ぼくのヒルダに・・・！しかも顔がいいのも気に入らないっ！）

やがて４人は息を切らせながらヒルダとエドガーの前に駆け寄ってくると、フランシスが真っ先に口を開いた。

「ヒ、ヒルダ・・・驚いたよ。島には行けないって言ってたから・・。」

「そうだよ。ヒルダ。」

「どうしてこの島へ来たんだ？」

ルイス、カインも後に続く。

「あの、それは・・・。」

ヒルダが言いかけた時、マイクがエドガーの前に進み出ると言った。

「貴方は誰ですか？さっきヒルダを抱きかかえて船から降りてきましたよね？」

そして鋭い目でエドガーを見る。しかし、エドガーはマイクの視線を真正面から受け止めながら言った。

「まずは人に名前を尋ねる時は自分から名乗るべきじゃないか？」

そして腕組みをするとマイクを見た。

（なんだ？この男は・・・。）

しかし、マイクは苛立ちを隠しながら言った。

「そうでしたね、すみませんでした。僕はヒルダのクラスメイトのマイク・ブライトと言います。ヒルダのクラスメイトで、クラス委員長を務めています。そしてこっちは親友のフランシスにルイス、カインです。」

マイクはついでにフランシス達の紹介をすると言った。

「僕たちの自己紹介は済んだのですから、今度は貴方の事を教えてもらえませんか？」

マイクは勝手にその場を仕切りはじめた。

「俺はエドガー・フィールズ。ヒルダの兄さ。妹がいつも世話になってるね。」

そしてこれ見よがしにヒルダの肩に手を置くと言った。

「「「「ええええっ？！」」」」

驚いたのは少年たちだ。

「あ・・そ、そういえば・・髪の色が同じだ・・。」

ルイスが言う。

「うん、うん。瞳の色も同じ青だし。」

カインも首を振る。

「何だ・・・そっか。ヒルダのお兄さんだったんですね。初めまして。先程マイクが紹介したフランシス・ランドルフです。ヒルダのお兄さんと言う事は・・・カミラさんのお兄さんでもあるわけですよね？」

フランシスの言葉にエドガーは眉をしかめ、チラリとヒルダを見た。すると、ヒルダはエドガーの服の端をギュッと握りしめ、口を閉ざしている。そんな様子のヒルダを見て、エドガーは状況を理解した。

「ああ、そうだよ。ヒルダもカミラも2人とも俺の妹さ。」

「そうなんですか。でもヒルダとお兄さんはよく似てますけど、カミラさんは似てないんですね？」

何も知らないフランシスは再びカミラの話を持ち出してきた。

「ああ、そうだよ。カミラはね、父さんに似てるのさ。俺とヒルダは母さんに似たんだ。そうだろう？ヒルダ。」

ヒルダはいきなりエドガーに話を振られ、驚きつつも返事をした。

「え、ええ。そうなの。私とお兄様はお母様に似ているのよ。」

（皆には・・・『カウベリー』での事件を知られたくない・・・。）

そう思ったヒルダはエドガーの服の裾を握りしめると言った。

「あの・・久しぶりにお兄様と再会したので、兄妹の水入らずで過ごしたいの。悪いけど・・私とお兄様の2人きりにさせてもらえないかしら・・。」

「ヒルダ・・・。」

マイクはヒルダを見つめた。

（何でだ？俺たちがいたら・・邪魔なのか？だけど・・。）

「そんなこと言わないでさ。みんなで話をしようよ。ヒルダの故郷の話も聞きたいし。」

マイクはヒルダに声を掛けるがヒルダは俯いて返事をしない。するとフランシスがマイクの肩を掴むと言った。

「おい、よせよ。マイク。ヒルダがああ言ってるんだから言う通りにしようぜ。俺たちはクラスメイトで毎日教室で会ってるだろう？でもお兄さんとはめったに会えないんだ。2人きりにしてやろうぜ。」

「そうだぞ。マイク。」

「ああ、フランシスの言う通りだ。」

ルイス、カインもフランシスの意見に賛同する。

「・・・。」

マイクは悔しそうに下唇をかみしめたが、ここで自分だけ異を唱えるわけにはいかない。

「そうだな・・よく考えてみるとフランシスの言う通りかもしれない。すみませんでした。それじゃ僕たちは向こうへ行ってますね。ほら、皆行こう。」

マイクが促すとルイス、カインは笑顔で手を振って去って行く。

「ヒルダ、また後で！」

フランシスは元気よく手を振るとマイク達と共に波止場を去って行った―。