第4章 10 『ロータス』へ来たもう一つの理由
「お兄様・・・ありがとうございました。」
ヒルダはフランシス達が去ると言った。
「何を?」
「カミラの事です・・・。私とカミラは・・『ロータス』では姉と妹として暮らしているんです。」
「そうか・・。」
「それで・・お兄様。お願いがあるのですけど。」
「お願い?どんな?」
「私の・・・『カウベリー』での出来事です。お願いします。教会での火事やお父様から縁を切られた事・・故郷を去らなければならなくなった事です。皆には・・黙っていていただけませんか?私・・誰にも知られたくないんです。」
そしてヒルダはエドガーの服の裾を握りしめる力を強めると俯いた。
「ヒルダ・・・。」
エドガーはヒルダの頭を自分の胸に押し付けると言った。
「分ったよ、ヒルダ。俺とヒルダは・・血の繋がりは無いけど、ヒルダを大切な俺の妹だと思っている。彼等には何も言わないでおくよ。第一・・・。」
エドガーはそこまで言うと言葉を切った。
「お兄様・・・どうされたのですか・・?」
「いや、何でもないさ。ほら、ヒルダの友人達がこっちを見て待ってるぞ?皆の処へ行こう。」
エドガーは笑みを浮かべると言った。
「はい、お兄様。」
ヒルダは杖をつくと、フランシス達の元へ歩いて行く。それを目にした彼らはヒルダに向って駆け寄って行った。そしてその様子ををじっと見つめるエドガー。
実はエドガーが『ロータス』へやってきたのにはもう一つ別の理由を抱えていた。それは決してヒルダには明かしてはならない重要な秘密。
『カウベリー』は封鎖的な土地である。エドガーはとても頭がよく、記憶力も抜群に良い若者である。領民たちの顔ぶれは1年で覚えた。そしてここ最近になり、見かけない男が頻繁に出入りするようになっていた。その人物は領民たちの話によると領主であるフィールズ家の事を嗅ぎまわっていると言う報告を受けていたのだ。
しかし、『カウベリー』に住む領民たちは皆口が堅く、フィールズ家に忠誠を誓っている為にヒルダの秘密は守られていたのだ。
(きっと『ロータス』にヒルダの事を嗅ぎまわっている人物がいるに違いない。)
勘の良いエドガーはその考えに至り、ヒルダの様子を見に行く為に父であるハリスの目をごまかし、汽車に乗り、4時間かけて『ロータス』へとやってきた。
そして経済観念が強いエドガーはヒルダの住むアパートメントの近くで敢えて一番安いホテル見つけて宿を取ったのである。それは少しでも旅費を押さえて、ロータスでヒルダの為に何かお金を使ってやりたかったからである。
エドガーは血の繋がりが無くても、故郷を追われた可哀そうなヒルダの力になってあげたいと思っていたのだ。
「ヒルダ、お兄さんとは話し合いは終わったのか?」
ヒルダに真っ先に駆け寄ってきたフランシスが尋ねてきた。
「ええ、終わったわ。」
「ヒルダ、ステラとエミリーは別の場所で貝殻を拾ってるんだ。案内するよ。」
ルイスが声を掛けてきた。
「貝殻拾い?ここでは貝が拾えるの?」
ヒルダの問いにカインが答えた。
「ああ、巻貝やら、二枚貝、ツノガイ・・他にも色々綺麗な貝が拾えるんだぞ?」
「素敵ね・・・ステラとエミリーが今拾っているなら・・・私も行ってみたいな。」
ヒルダの言葉にフランシスは、いち早く反応した。
「よし!ヒルダ。俺がつれて行ってやるよ。一緒に行こう。」
「俺達だって行くに決まってるだろう?なあ。カイン。」
「当然さ。」
ルイスに声を掛けられたカインは返事をし、結局4人は固まって歩き出した。
「君はヒルダたちと一緒に歩かないのか?」
賑やかなフランシス達から少し距離を開けて歩くエドガーは、同じく自分の隣を歩くマイクに尋ねた。
「ええ、いいんです。それより僕はお兄さんからヒルダの事を色々尋ねたいと思っているんです。」
その言葉にエドガーは反応した。
「ヒルダについて・・・だって?」
「ええ。僕は1人の友人として・・ヒルダの事が心配なので彼女の事なら何でも知っておきたいんですよ。」
「ふ~ん・・そうなのかい?」
エドガーは言葉を交わしながら思った。ひょっとするとヒルダの事を調べているのはこの少年なのではないか・・・と―。
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