第3章 8 婚約の真意

「え・・?だ、旦那様・・・。僕がヒルダ様の婚約者になるのですか・・?」


ルドルフは信じられない思いでハリスに尋ねた。


「ああ・・・そうだ。ルドルフ・・・お前の監督不行き届きでヒルダは落馬し、一生治る事の無い大怪我を負ってしまったのだ。ヒルダの評判は近隣のすべての貴族達に知れ渡り、可哀そうなヒルダは見合い話どころか、お茶会や誕生会まで呼ばれなくなってしまった。もうあの子は一生貴族の元へ嫁にはいけなくなってしまったのだっ!なのでお前に責任を取って貰う。だからお前達家族に男爵家の爵位を金で買って与えたのだ。よいか?ルドルフッ!お前は一生ヒルダの面倒をみるのだ!」


ハリスは怒りに身を震わせながらルドルフを指さした。


「ルドルフ。ヒルダはまだこの事は何も知りません。貴方からヒルダに伝えなさい。爵位を買って男爵家になったので、婚約者になって下さいと。いいわね?その際は決して私達の事を口に出さないように。」


マーガレットは静かな声でルドルフに言う。


「で、ですが・・・ヒルダ様の気持ちはどうなのですか?ひょっとすると僕の事を恨んでいるかもしれませんよ?それでも僕にヒルダ様の婚約者になれと仰るのですか?」


ルドルフは自分のせいでヒルダが大怪我を負ってしまったので、もう自分は完全に嫌われてしまったに違いないと思っていたのだ。


「それならそれで構わん。」


ハリスの言葉にルドルフは耳を疑った。


「え・・・?それは一体どういう意味でしょうか・・?」


「勘違いするなよ、ルドルフ。お前はヒルダの婚約者になって貰うが、対等の関係になれるとは思うな。お前は名目上はヒルダの婚約者だが・・・一生ヒルダの下僕として生きて貰うと言う事だ。そして・・・仮にヒルダがお前に飽きたり、誰か他の男を好きになったりした場合は・・すぐに婚約破棄させる。お前とヒルダはまだ15歳だからな。18歳になるまでは婚約状態だ。そしてその後の成り行き次第で、実際に婚姻するか、もしくは別れるかを判断させてもらうからな?分かったかっ!言っておくがお前に拒否権は無いぞ。その為にこちらもお前達親子にそれなりの褒美を与えたのだから、せいぜい3年間ヒルダの婚約者を立派に勤め上げる事だ。」


「さあ・・・それでは今すぐヒルダの元へおいきなさい。今メイドにヒルダの部屋を案内させるから。カミラッ!」


マーガレットがドアの外に向かって呼びかけると、ヒルダ専属メイドのカミラが現れ、恭しく頭を下げた。


「お呼びでしょうか。旦那様、奥様。」


「すぐにこの少年をヒルダの元へ案内してくれ。」


ハリスはルドルフを一瞥すると言った。


「はい、承知致しました。ではご案内致します。こちらへどうぞ。」


カミラに促され、ルドルフはソファから立ち上がるとハリスとマーガレットに一礼した。


「失礼致しました。」


そして、カミラに連れられて部屋を後にした。



ルドルフが部屋から出ていくとマーガレットはハリスに言った。


「うまくいくといいですね・・・あの子は礼儀正しいし、頭も良い少年の様ですから・・平民にしておくには勿体ないと思っていたのですよ。」


「だが・・・噂によるとあの少年には親しく付き合っている少女がいるらしいが・・・面倒な事にならなければ良いな・・・。」


ハリスは難しい顔をして呟いた。



「ヒルダ様の御加減はどうなのですか?」


案内をされながらルドルフは質問した。


「ヒルダ様のお部屋は1階に移しました。まだ足のギプスは外れておりませんので車椅子生活をされております。」


「そうですか・・・。」


(ヒルダ様・・・僕のせいで・・・。)


ルドルフは項垂れた。そんなルドルフをカミラはチラリと見ると言った。


「ルドルフ様・・・どうかヒルダ様を見捨てないで上げてください・・・。」


「え?」


ルドルフはその言葉に顔を上げると、そこは部屋の前だった。


「ヒルダ様のお部屋になります。では私はこれで失礼致します。」


カミラは頭を下げると部屋の前から去って行った。


(このドアの向こうにヒルダ様が・・。)


ルドルフは緊張の面持ちでドアの前に立つと、部屋のドアをノックした―。



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