第3章 9 嘘の告白

 コンコン


ヒルダの部屋のドアがノックされた。丁度その時ヒルダは学校に行けない為、自主的に自宅学習をしていた。


(誰かしら・・?)


ヒルダは訝しみながらも返事をした。


「どうぞー。」


「失礼します・・・。」


するとドアをガチャリと開けて中へ入って来たのはルドルフであった。


「ル・・ルドルフッ?!」


ヒルダはまさかルドルフが訪ねて来るとは思いもしなかったので驚いて目を見開いた。


「お久しぶりです・・・。ヒルダ様。」


ルドルフは、はにかみながらヒルダを見て・・・左足にまかれた痛々しいギプスを目にして悲し気な顔をした。


(ヒルダ様・・・僕のせいであのような大怪我を・・・。)


「ど、どうしたの?ルドルフ・・・こんな突然に・・そう言えば今迄ルドルフはどうしていたの?実は最近マルコさんの姿もルドルフの姿を見る事も無くて心配していたのよ・・・。」


ヒルダは両手を前に組んでルドルフを見つめた。


「ヒルダ様・・・。」


一月ぶりに見るヒルダは以前に比べ、痩せてしまってはいたが・・・やはり美しかった。夕焼けの太陽の光を浴びて長く伸びた金の髪はきらきらと輝き、光の粒が溢れているようにも見えた。思わずルドルフはヒルダの姿に見惚れかけ・・・我に返った。


(駄目だ・・・僕はヒルダ様の婚約者になるけれど・・・対等の関係になってはいけないんだ。ヒルダ様の下僕として・・一生お仕えするのだから・・。)


「ヒルダ様、聞いて下さい。実は僕の父がお金を貯めて爵位を買ったんです。僕達親子は男爵家になったんですよ?」


ルドルフはニコニコしながら言った。


「え?!そ、その話は・・・本当なの?ルドルフ。」


ヒルダはあまりにも突然の話で驚いた。


「ええ、そうなんです。今日から僕の名前はルドルフ・テイラーになりました。」


「そうなの・・・ルドルフ・テイラー・・・うん、すごく素敵な名前ね・・・。」


しかし、言葉とは裏腹にヒルダは今にも泣きたい気持ちになってしまった。


(ルドルフは貴族になってしまった・・・。彼は素敵な男の子だから、これから社交界デビューをしたら・・きっと色々な貴族令嬢に想いを寄せられるに決まってるわ。私が二度と参加する事の出来ないパーティーにも出席して・・そこで素敵な令嬢と知り合って・・2人は・・。)


ヒルダの妄想は悪い方へとばかり向かってしまう。


一方のルドルフは不思議でならなかった。てっきりヒルダは自分と同じ貴族になった事を喜んでくれるとばかり思っていたのに、俯いて悲し気な表情を見せているからだ。


「あの・・・ヒルダ様・・どうされたのですか?」


ルドルフはヒルダに声を掛けた。


「い、いえ・・何でも無いの・・・。」


ヒルダは視線を逸らすように言う。するとルドルフは無言でヒルダのすぐ傍まで近付くと、車椅子の前で跪いた。


「お願いです、ヒルダ様。何故そのように悲し気な顔を見せるのか・・教えて下さい。」


「そ、それは・・ルドルフが遠い存在になってしまったから・・。」


「え・・?何故僕が遠い存在に・・・?」


ルドルフには訳が分からなかった。


「だって、貴方は貴族になったのだから・・これからきっと社交会デビューを果たすでしょう?ダンスパーティーに参加したり・・・貴族同士の会合に参加したり・・私にはもう二度とそのお誘いは来ないの・・・。だから・・。」


ヒルダは胸を詰まらせながら言う。ルドルフは何故ヒルダが悲し気な顔を見せるのか、ようやく理解した。


(ヒルダ様・・・っ!)


ルドルフはヒルダの両手をそっと包み込むと言った。


「ヒルダ様・・・・僕の父が爵位を買ったのは・・僕の為なのです。僕がヒルダ様とつり合いが取れる人間になる為に・・・。」


「え・・?」


ヒルダはルドルフの目を見た。


「ヒルダ様・・・好きです。どうか僕と婚約して下さい・・・。」


そしてルドルフはヒルダの右手の甲にキスをした―。

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