第2章 12 馬術大会前日の出来事

 ヨハネがヒルダの婚約者候補だと知ってしまったルドルフはトボトボと家路に向っていた。そして家に辿り着き、ドアを開けようとしたところ、背後から声を掛けられた。


「ルドルフ。」


「グレースー・・・。」


立っていたのはグレースだった。


「今帰ってきたのね?随分遅かったじゃない?」


腰に手を当てながらグレースは言う。


「う、うん。父さんの手伝いをしてきたから・・・。」


「ああ・・ヒルダ様のお屋敷に行っていたのね?・・それにしてもルドルフ。何だか元気が無いみたいだけど・・・何かあったの?」


「ううん、別に何も無かったよ。」


「嘘ね。」


「え?」


「絶対に何かあったに決まっているわ・・・。ひょっとするとヒルダ様と何かあったの?」


「!」


ルドルフが肩をピクリとさせるのをグレースは見た。


「やっぱり・・・喧嘩でもしたの?」


「・・・そんなんじゃないよ・・・。」


俯くルドルフにグレースは言った。


「ねえ・・・私が何故ここへ来たのかは分かっているわよね?」


「・・・・。」


ルドルフは黙ってグレースを見つめた。


「・・・返事を聞かせて?ルドルフ・・・。」


グレースは目に涙を浮かべてルドルフを見つめた。


「グレース・・・僕は・・・。」


そしてルドルフは口を開いた―。





 翌日―


この日もヒルダはヨハネと乗馬の訓練を行っていた。そして休憩時間、2人でいつものようにシートを敷いてお茶を飲んでいると突然ヨハネが言った。


「ヒルダ、明日の馬術大会・・・馬を引いてエスコートしてくれる人を頼んだらしいね?」


「は、はい。そうなんです・・・その方はルドルフと言うお名前の方で・・申し出てくれたんです。」


ヒルダは顔を真っ赤に染めながら言う。それを見つめていたヨハネが言った。


「ひょっとしてヒルダはその人の事が好きなのかな?」


「えっ?!」


ヨハネに指摘されて、途端にヒルダの頬が赤く染まる。


「ふ〜ん・・・そうなのか・・・。でも、別に僕はそれでも構わないけどね?」


何故か意味深な言い方をするヨハネにヒルダは首を傾げた。


「あの・・ヨハネ先生・・・。仰っている意味が良く分からないのですが・・・?」


「いや、いいんだよ。ヒルダ、今の話は聞き流してくれて・・・。でも残念だったな。僕がヒルダのエスコートを出来ると思っていたから・・・。」


「すみません、ヨハネ先生。別の方に頼んでしまって・・。」


ヒルダは頭を下げた。


「そんな謝らなくていいから。ヒルダ、顔をあげて。さて・・それじゃそろそろ練習を再開しようか?」


「はい!」


ヨハネの言葉にヒルダは返事をした―。



その夜―


ヒルダは窓から星空を眺めていた。いよいよ明日は馬術大会である。ヒルダをエスコートしてくれるのはルドルフ。

ヒルダはある思いを胸に秘めていた。


(もし・・・もし、明日の馬術大会で・・・優勝する事が出来たなら・・ルドルフに想いを告げよう・・・。お月様・・・どうか明日、優勝する事が出来ますように・・そしてルドルフと両思いになれますように・・。)


ヒルダは両手を組み、瞳を閉じて月に願いを掛けた。



しかし、この馬術大会でヒルダの身に悲劇が降りかかるとはこの時の誰もが知る由も無かった―。


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