第2章 11 ヒルダの婚約者候補
ヒルダは毎日ヨハネと一緒に馬術の練習を続けた。最初は教師と教え子と言う関係だった2人は徐々に親しくなっていき、馬術以外の会話もするようになってきた。
休日の午後の昼下がり―
ヒルダとヨハネは馬術の練習の合間の休憩をしていた。
「まあ・・・ヨハネ先生は大人びてるから20歳を超えているかと思っていましたわ。」
ヒルダは驚いた様に声を上げた。
「そうかい?まだ僕は19歳だよ。君とも4歳しか年齢は違わないからね。レディ?」
シートを敷いて2人で仲睦まじく話している姿を遠くで見ていたメイド達が噂をしている。
「ねえねえ。知っていた?旦那様が連れて来たあのヒルダ様と一緒にいるヨハネ先生って・・・実はヒルダ様の婚約者候補何ですって・・。」
「え~そうだったの?でも何だかおかしいと思っていたのよね・・・だって毎日あの方はここに通っていらしたし、いつも旦那様と何やら真剣な表情でお話ししていらしたから・・・。」
「その話って、ヒルダ様はご存知なの?」
「まさか〜知っていたらきっとヒルダ様は馬術の練習を拒んでいたわよ〜。」
その時―
背後でドサッと何かが落ちる音が聞こえ、噂話をしていたメイド達が慌てて振り向いた。するとそこには青い顔をしたルドルフが立っていたのである。彼の足元には馬の餌袋が落ちていた。
「あ、あら。誰かと思えばマルコさんの所のルドルフじゃないの?どうしたの?」
メイドの1人がルドルフに声を掛けて来た。
「あ、あの・・今の話は本当ですか?」
ルドルフはメイド達を見渡すと尋ねた。
「え・・・?今の話って・・?」
一番年かさのメイドが首を傾げた。
「ですから、今ヒルダ様に乗馬を教えている方が・・・実はヒルダ様の婚約者候補って話です・・!」
ルドルフは必死で尋ねて来る。
「わ、私達も良く知らないのよ・・・だって、あくまでこれは噂だから・・・。」
「そうそう。どうしても知りたいなら・・・そうだ、ヨハネ様に直接訪ねるのがいいんじゃないかしら?私達も本当の事知りたいし・・・。意外とルドルフになら・・あの方も正直に話してくれるんじゃないかしら?」
「そ、そんな・・・。」
ルドルフはヒルダがヨハネと楽し気に話している姿を今にも泣きそうな顔で見つめていた。
(ヒルダ様・・・貴女は・・その男性に好意を寄せているのですか・・・?)
ヨハネと楽し気に話をしていたヒルダはルドルフが悲し気な瞳で自分達を見つめている事にまったく気が付いてはいなかった―。
馬術大会もいよいよ明後日に迫ろうとしていた時―。
ヒルダは父の書斎の前に立っていた。そしてス〜ッと深呼吸すると、ドアをノックした。
コンコン
「・・・誰だね?」
ドアの奥から声がする。
「ヒルダです。お父様にどうしてもお話したい事があって参りました。」
「入って良いぞ?」
「失礼します。」
ガチャリとドアを開けてヒルダは中へ入ると父がソファを進めて来た。
「それで・・話とは何だ?ヒルダ。」
ヒルダはソファに座ると言った。
「はい、今度の馬術大会・・・ルドルフにエスコートさせて下さい。」
「・・・。」
父ハリスは穴のあくほどヒルダを見つめていたが・・・やがて言った。
「分かった、いいだろう。」
「え?い、いいのですかっ?!」
「どうせお前の事だ・・・反対すれば、だったら馬術大会はボイコットする・・とか言い出しかねないからな?好きにしろ。」
「本当ですかッ?!お父様大好きっ!」
ヒルダは父に飛びつくと右頬にキスをして、すぐに部屋を飛び出して行った。
「全く・・・ヒルダの奴め・・・まあいい。どうせ馬術大会が終われば婚約を発表するのだから・・今の内だけ好きにさせてやるか・・・。」
ヒルダはそんな父の思惑を知る由も無かった―。
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