第3章 1 グレースの悪知恵

 今日はフィールズ家の馬術大会の日である。

大勢の参加者達が集まる中、未だにルドルフは現れない。


(ルドルフ・・・どうしちゃったのかしら・・・?)


ソワソワしながら待っていると、ようやくルドルフが現れた。


「ルドルフッ!待っていた・・・わ・・・?」


ヒルダはルドルフに駆け寄り、顔を見上げ・・言葉を失った。ルドルフの顔が今にも倒れそうなくらいに青ざめているからである。


「ル・・ルドルフ・・・。どうしたの・・・?顔色が悪いけど・・どこか具合でも悪いの・・・?」


ヒルダがルドルフの額に触れようとした時・・・フイとルドルフはヒルダから顔を背けると言った。


「いいえ、大丈夫です。ヒルダ様。遅くなって申し訳ございません。それではスタート地点に向かいましょうか?」


「え?ええ・・・。」


そしてヒルダは馬にまたがると、ルドルフは手綱を引いてヒルダの隣を歩く。しかし、ルドルフは前を向いたままで一向にヒルダとは視線すら合わせようとしない。


(ルドルフ・・・どうしちゃたの・・?もしかして・・私の事嫌いになってしまったの・・?でも何故・・?)


ヒルダにはルドルフが何故このように自分に冷たい態度を取るのかが、全く理解出来なかった。そしてルドルフの横顔を見つめている内に涙が込み上げそうになり、慌ててヒルダは目を擦った。


(駄目よ・・・こんな所で泣いたりしたら・・・。だってこの大会に優勝して・・・私はルドルフに告白するんだから・・っ!)




一方その頃―


ルドルフの友人であるイワン、コリン、ノラ、グレースは会場に見学に来ていた。


「全く図渦しい貴族だな・・あのヒルダって女は・・。」


イワンは立食テーブルの上からクッキーを摘まみながら文句を言っている。


「本当よね!ルドルフの優しい所に付け入ってるわっ!」


ノラはチョコレートを食べながら文句を言う。


「何かあのヒルダって女をぎゃふんと言わせられないかな・・・。」


コリンはサンドイッチを食べている。


「・・・・。」


 グレースはそんな彼等の話を黙って聞きながら、辺りをキョロキョロ見渡した。グレースたちの前方、20m程の場所に馬にまたがったヒルダと手綱を引くルドルフが順番待ちの待機をしている。


(ルドルフの馬鹿・・っ!ヒルダ様なんか放っておけばいいのに・・・!)



そして憎悪の混じった目で2人を見据えていると、ヒルダの頭上にある木に蜂の巣を発見した。


(そうだわ・・・あの蜂の巣をちょっと刺激して・・私のルドルフを1人じめしているヒルダ様を少し驚かせれば・・・。)


そこでグレースは彼等に言った。


「ねえ、皆・・見て。ヒルダ様の頭上・・・・。」


「あれ・・?蜂の巣じゃないか?」


「そうだな・・意外と大きい。」


「ちょっと危なさそうね・・。」


イワン、コリン、ノラが交互に言う。


「ねえ、危ないからあの蜂の巣を長い棒か何かで落としたらどうかしら?」


グレースの言葉にあまりかしこくないイワンが頷いた。


「おう!それがいいな!」


「ええッ!逆に危ないよっ!」


「そうよ、やめなさいよ。イワン!」


コリンとノラが止めたがグレースは言った。


「あのままの方が危ないわよ・・・。ほら、丁度長い棒を見つけたわ。」


グレースは長い棒を拾い上げるとイワンに渡した。


「よしっ!」


そしてイワンはヒルダの近くにそろそろと近づき・・・棒で激しく蜂の巣を叩いた。


すると・・・。


ウワアアアーッと羽音と共に蜂が一斉に巣から飛び出してきた。


ヒヒヒヒィーンッ!!


驚いた馬がいななき・・・突然ヒルダを乗せたまま走り出した。


「キャアアアッ!!」


ヒルダは必死で馬にしがみ付く。


「ヒルダ様っ!!」


手綱を持ったままのルドルフは慌てて馬の後を追いかけるが、足が速くて追いつけない。


 一方、ヒルダの両親は突然騒ぎが起こった事に気が付き、何事か駆けつけると暴れる馬に大勢の観衆が見守る中、必死でしがみ付くヒルダの姿を発見した。あまりの出来事に人々はなすすべもなく見守っている。


「キャアアッ!ヒルダッ!」


「ヒルダッ!!」


マーガレットとハリスの悲鳴が起こると同時に・・・馬は大きく身体を反らせ、ヒルダの身体が宙に舞った―。



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