第1章 10 悲しい言葉

「お見合い・・・ですか?ヒルダ様が?そのお相手は・・やはり貴族の方ですか?」


ルドルフがいつになく真剣な目でヒルダを見つめながら尋ねてきた。


「え、ええ・・そうなの・・・。相手の写真もあるみたいだけど・・見る気も起きなくて・・。」


ヒルダはじっと見つめてくるルドルフの視線が何故かいたたまれなくなり、視線を逸らせた。


「ヒルダ様は・・・その方と結婚されるのですか?」


突如、ルドルフの悲し気な声が耳元で聞こえ、驚いて顔を上げるとそこには思いがけず至近距離で自分を見つめる美しいルドルフの顔がそこにあった。


「ル、ルドルフ・・・?」


ヒルダの顔は一瞬で真っ赤に染まった。しかし、ルドルフはヒルダの様子に気がついていないのか、尚も真剣な表情で問い詰めてくる。


「答えて下さい、ヒルダ様。」


(急にどうしちゃったの?ルドルフ・・・・?で、でも近すぎるわ・・。恥ずかしいから少し・・離れましょう・・。)


ヒルダは戸惑いながらもルドルフから身を離して答えた。


「ま、まさか・・・だって会った事も無い人と結婚するかどうか聞かれても・・・。ただ家の対面を保つ為にお見合いをするだけなのよ・・・。」


「でも・・もしそのお相手の方がヒルダ様を気に入られたら・・?」


ルドルフは目を伏せながら尋ねて来た。


「え・・・?」


ヒルダの耳に先程の母の言葉が蘇って来た。ラッセル家の長男であるギルバートという少年がどうしても自分に会いたいと言っていた話を・・・。


「ヒルダ様・・・。申し訳ありません。先程から僕は不躾に質問ばかりしておりましたね・・。」


「ルドルフ・・・。貴方は何故・・・そこまで・・わ、私のお見合いの話を気にかけるの・・・?」


(まさか、ルドルフは私の事を・・・?)


今にもヒルダの心臓は飛び出てしまうのではないかと思う程、どきどきしながら尋ねた。

ルドルフはばつが悪そうにヒルダを見つめていたが、やがて口を開いた。


「それは・・・ヒルダ様が悩まれていたからです。」


「え・・・?」


「お見合いをする事に悩まれていたので・・・辞退できないものかと思い、お尋ねしてしまいました。出過ぎた真似をしてしまいました。申し訳ございません。」


ルドルフは頭を下げて丁寧に謝罪をしてきた。


「い、いいのよ。ルドルフ。気にしないで。」


ヒルダは笑みを浮かべながらルドルフに言ったが、彼の言葉はヒルダを落胆させるには十分だった。


(そうよね・・・。ルドルフには私が一方的に片思いをしているだけ・・。彼がお見合い相手に嫉妬するなんて、あり得ないわ・・・。)


せめてルドルフとヒルダが恋人同士であれば、お見合い相手に自分には好きな相手がいるので辞退させて下さいと伝えられるが、ただの片思いでしかも相手は平民ともなれば、見合い相手は納得などするはずが無いだろう。


「お嬢様・・・悩みがあるなら話して下さいと申し上げましたが・・解決して差し上げる事が出来なくて・・・。」


ルドルフはすまなそうに頭を下げて来た。


「いいのよ、ルドルフ。お話を聞いてくれただけで・・・十分だから。有難う。」


その態度だけでルドルフが自分には全く興味が無いと言う事が分かり、ヒルダは悲しくて目頭が熱くなりかけたが必死で我慢すると言った。


「ヒルダ様・・・本当にご期待に添える事が出来ず・・・申し訳ございません。」


期待に添える事が・・・ルドルフには全く悪気は無いのだろうが、ヒルダに取ってその言葉は自分のルドルフに寄せる好意を拒絶する言葉に聞こえてしまった。


「・・・っ・・。」


もう、これ以上ヒルダは悲しみで耐えられそうに無かった。そこで突然立ち上がると言った。


「ありがとう、ルドルフ。お話・・・聞いてくれて・・・。そ、それじゃ私、もう

行くわね?」


無理矢理笑顔を作ると、ヒルダはルドルフに手を振り、足早にガゼボを後にした。

ブルネットの瞳に涙を湛えながら―。










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