第1章 9 ガゼボでの2人の会話

 母にお見合いをする返事を告げたヒルダはトボトボと歩き続け、気付けばルドルフと再会したガゼボの中に座っていた。そしてぼんやりと美しい庭園を見つめていると声を掛けられた。


「ヒルダ様。」


名前を呼ばれて顔を上げると、そこにはルドルフが立っていた。


「ルドルフ・・・ッ!」


途端にヒルダの頬は薄っすら赤く染まり、胸はドキドキと高鳴った。


「今日は父の手伝いで厩舎に来ていたんです。ヒルダ様がいらっしゃるかと思い、こちらへ来てみたのですがまさか本当におられたとは思いませんでした。でもお会い出来て良かったです。」


ルドルフは笑顔でヒルダに言う。


「わ、私もまたルドルフに会えるとは思わなかったわ。」


ヒルダはますます高まる心臓の音が今にもルドルフに聞こえてしまうのでは無いかと思うと恥ずかしさが込み上げて来る。それに・・・。


(ルドルフ・・お会い出来て良かったですって・・・どういう意味?私に会いたかったって事・・?)


「ヒルダ様、隣・・座っても宜しいですか?」


ルドルフが遠慮がちに尋ねて来た。


「え、ええ!勿論よ。どうぞ、す・座って?」


ヒルダは笑みを浮かべて席をずれると、ルドルフは失礼しますと言って中へ入り、ヒルダの隣に座った。

ルドルフはヒルダの隣の席に座ると言った。


「実はヒルダ様にお会いしたかったのはお礼を言いたかったからなのです。」


「お礼?」


(お礼・・・何の事かしら?)


「今朝、僕の友人のイワンとコリンに会って、サンドイッチをご馳走してくれた事です。凄く美味しかったと2人とも喜んでいましたよ。もし会えたらお礼を伝えてくれてと頼まれていたんです。それで、バスケットを持ってこちらへ伺ったのですが・・ヒルダ様に直接会えるとは思わなかったので父に預けて来たんです。後で・・父の元へ行って頂けますか?」


「え、ええ。それ位大丈夫よ。」


(何だ・・・私に会いたかったのは友人の伝言とバスケットを返したかったからなのね・・・。)


ヒルダは落胆した。でも不思議とこうして会って話をしているだけでヒルダの先程までの暗い気持ちが明るくなっていくのが自分でも良く分かった。


「それにしても安心しました。」


おもむろにルドルフが言った。


「?」


わけが分からずヒルダは首を傾げるとルドルフが続けた。


「先程、遠くでヒルダ様をお見かけした時、随分落ち込んでらっしゃるように見えたので・・・でも今は素敵な笑顔を見せてくれて・・・嬉しいです。」


笑顔でヒルダを見つめながらルドルフは言う。


「そ、それは・・・。」


思わず顔が赤くなり、ヒルダはさっと視線を逸らした。


(それは・・・ルドルフ、貴方に会えたからよ・・・!)


そんな風に言葉に出来ればどんなにか良かったのにとヒルダは心の中で思った。俯くヒルダにルドルフは言った。


「もし、何か悩みがあるなら・・・僕で良ければ話して下さい。ヒルダ様のお力になりたいんです。」


ルドルフが自分をじっと見つめる視線をヒルダは感じ、顔を上げた。そこには真剣な表情のルドルフがいた。


(どうしよう・・・話してもいいかな・・?でも、伝えたところでどうにも出来るわけじゃないけど・・・ルドルフには知って欲しい・・・!)


ヒルダは意を決して顔を上げるとルドルフに言った。


「あの・・・ね・・ルドルフ・・・私、週末に・・お見合いする事になったの・・・。」


どうせ、ルドルフには関係ない話なので普通に軽く聞き流してくれるだろうと思っていたヒルダだったのだが・・それを伝えた途端、ルドルフの顔色が変わった―。



 

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