嫌われた令嬢、ヒルダ・フィールズは終止符を打つ

第1章 4 会えない日々

　ルドルフがヒルダの前に姿を現さなくなってから2週間が経過した。

「ルドルフ・・・今朝も会えなかったわ・・・。」

馬車の中でヒルダは寂しげに溜息をついた。先程すれ違ったのはルドルフと一緒にいた友人達だったが、その中にはルドルフの姿は無かったし、2人の少女もいなかった。馬車が通り過ぎた時、赤毛の大柄の少年が意味ありげな視線でヒルダの馬車を見ていたのが気になったが彼等と挨拶も交わした事が無いヒルダはルドルフの事を聞きたくても聞けずにいた。

（決めた・・・。学校から帰ったら今日こそはルドルフの事を彼のお父さんに尋ねよう。）

ヒルダは心に決めた。

「おはよう、ヒルダ。今朝もルドルフには会えなかったの？」

馬車を降り、校舎に向って歩いていると友人のシャーリーが追ってきて声を掛けて来た。

「おはよう、シャーリー。うん・・・そうなの。だから今日・・ルドルフのお父さんに尋ねてみようかと思って。」

シャーリーは元気のない様子のヒルダが心配になってしまった。

（何だか嫌な予感がする・・・・。ヒルダには言えないけど・・・ルドルフという彼は・・意図的にヒルダを避けているのじゃないかしら・・？）

しかしルドルフに恋するヒルダにはとても言えなかった。

学校が終わり、帰宅したヒルダは早速ルドルフの父、マルコが働いている厩舎へとやって来た。

「こんにちは。マルコさん。」

厩舎で馬の世話をしていたマルコは驚いた。

「ヒルダお嬢様・・・・！まさかこのような場所にいらっしゃるとは思いもしませんでした。本日はどうされましたか？」

「あ、あの・・・ルドルフは元気にしていますか？」

ヒルダは顔を赤らめ、伏し目がちにマルコに尋ねた。

「ええ、元気にしていますよ。」

「そうだったんですか。最近・・・学校の行き帰りも会わないし、ここに来ることも無くなってしまったので・・・。」

「すみません。私はルドルフから何も聞いていなかったので。そう言えば、最近いつもよりも早く登校するようになりましたね。妻に聞いたのですが、最近帰宅してくるのも以前より遅くなったそうですよ。」

「マルコさんは・・その理由、御存知ですか？」

「いいえ、何も知りません。」

マルコは首を振って答えた。恐らくこれ以上彼に聞いても答えは得られないだろう。

「分かりました、ありがとうございます。」

ヒルダは頭を下げると厩舎を後にした。そして屋敷の中庭をブラブラと歩き、庭に造られたガゼボを見つけ、溜息をつきながら座るとルドルフの事を思った。

（そう言えば、ルドルフの友人達は相変わらず毎日同じ時間ですれ違うわ・・・・。もしかして私はルドルフに避けられている・・？だから登下校の時間をずらしたの？でも一体何故・・・？）

ヒルダには自分がルドルフに何故避けられているのか、全く見当がつかなかった。もし、可能性があるとしたら・・・。

「私・・・がルドルフの事を好きだっていう気持ちが彼に気が付かれてしまったの・・？」

恐らく可能性があるとしたら、それしかない。ヒルダは溜息をつくと立ち上がり、自分の部屋へと帰りかけた時、厩舎へと向かうルドルフの姿が目に入った。

（ルドルフッ！）

思わず声を掛けそうになり、ヒルダは踏みとどまった。

（駄目だわ・・・。私はルドルフに避けられているのに・・・声なんかかけられない・・。）

久しぶりにルドルフの姿を見て、目頭が熱くなった。

ヒルダは急いでルドルフに背を向け、立ち去ろうとした時にルドルフに声を掛けられた。

「あれ？ヒルダ様ではありませんか？」

ヒルダは身体を硬直させながら、ゆっくりルドルフの方を向くと、そこには優しい笑みを湛えたルドルフの姿がそこにあった・・・。