第1章 3 ヒルダの夢

 湖の一件からヒルダとルドルフは少しずつ仲が良くなってきた。ルドフルは学校の帰り道、フィールズ家の厩舎で働く父の手伝いに来たと言っては度々ヒルダと話をするようになってきていた。朝の登校時、ヒルダの馬車に出会った時は手を振って挨拶をしてくれるようにもなった。

ヒルダはそれがとても嬉しかった。


そして今朝も・・。


ヒルダの乗った馬車とルドルフ達の集団が偶然出会った。


「あ、ヒルダ様、おはようございます。」


ルドルフは笑顔でヒルダに挨拶をした。


「お、おはよう。ルドルフ。」


ヒルダは馬車から顔を覗かせて薄っすら頬を染めてルドルフに返事を返した。たったそれだけの事・・・馬車はあっという間にすれ違ってしまうけれども、ヒルダは満足だった。


馬車を見送り、再び歩き始めた少年たち。その内の大柄な赤毛の少年がルドルフに声を掛けてきた。


「ルドルフ・・・最近、あのお嬢様と随分仲が良さそうじゃ無いか?もしかしてあのお嬢様に気があるのか?」


「別にそんなんじゃないよ、イワン。ただ以前よりは話をする機会が増えたって事ぐらいだよ。」


笑顔で答えるルドルフに髪を結わえた少年が言った。


「そうだ、イワン。おかしなことを言うなよ。大体俺達のような平民を貴族の連中は見下してるんだぞ?」


「コリン・・・。ヒルダはそんな子じゃないよ・・・。」


ルドルフは髪を結わえた少年を苦笑しながら見た。


「そうよ、トム。あんまりグレースの前で変な事言わないでくれる?」


ノラは怒ったように言う。


「そ、そんなノラ。私は別に・・・。」


グレースは慌てたようにノラの右腕を掴んだ。するとノラは目配せすると言った。


「ほら、イワン、トム。あんた達、今日日直だったでしょう?手伝ってあげるから早く行かないと!」


「あ、そうだった!」


「忘れてた!」


イワンとトムは焦ったように声を上げた。


「悪い、先に行ってるからな、ルドルフ。グレース!」


トムが2人に声を掛けた。


「また学校でな!」


イワンは言い残すとノラを伴って走り去った。後に残されたのはルドルフとグレースの2人だけである。


「朝っぱらから3人とも元気だね。」


ルドルフは走り去った3人の後姿を見ながら言った。一方のグレースは何か言いたい事でもあるのか、モジモジしている。


「どうかしたの?グレース。」


ルドルフはグレースに声を掛けた。するとグレースは弾かれたように顔を上げると言った。


「あ、あのね・・ルドルフ。最近・・・放課後あんまり私達と一緒に学校から帰らなくなったけど・・どうして?」


「ああ、それはね、最近父さんの仕事の手伝いをしているからだよ。」


ルドルフは笑顔で答えるが、グレースは悲し気な瞳で言った。


「・・嘘。」


「え?嘘じゃないよ?本当に父さんの所へ行ってるんだから。」


「確かにお父さんの仕事のお手伝いをしているのは事実だろうけど・・本当の理由は違うでしょう?あのヒルダ様と会いたいからお父さんの元へ通っているんじゃないの・・?」


グレースの目には涙が浮かんでいた。そして真剣な瞳でルドルフを見ると言った。


「ルドルフ・・・。私・・貴方に大事な話があるの・・・。」


「大事な・・・話し?」


ルドルフは首を傾げた―。




 ヒルダ、今朝もご機嫌ね?ひょっとして今朝も例の彼に会ったのかしら?」


教室へ入るとクラスメイトのシャーリーが声をかけてきた。


「ええ、そうなのよ。でもどうして分かったの?」


ヒルダは嬉しそうに言った。


「そんなの貴女の様子を見ればすぐに分かるわよ。ねえ、でもヒルダ・・・悪い事は言わないわ。ルドルフは諦めた方がいいわよ。だって彼は平民でしょう?とても貴女の両親が彼の事を認めるはずは無いわ。」


いつになくシャーリーは真剣な瞳でヒルダに言う。


「わ、分かってるわ。第一、私が一方的にルドルフに好意を抱いているだけなんだももの。どうせ時期に父が私のお見合い手相手を探してくると思うわ。でも・・それまでの間だけでも・・夢を見ていたの。」


そしてヒルダは頬を赤く染めた。


しかし、この日を境にルドルフはヒルダの前に姿を見せる事がピタリと止んでしまった―。







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